に当って、先に論及した一点について、興味ある註釈を加えておかねばならぬ。すなわち市場に商品が大量に存在する場合には、これら商品の各々の販売曲線は、全部または一部、存在の全量の並行線と一致しないとしても、最も低い価格と最も高い価格の中間の価格の大部分では、それに近づくことは明らかである。従って一般に、多数の商品の相互の交換の場合には、二商品相互の交換の場合に見るように(第六八節)、可能な多数の均衡価格はあり得ない。
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第十六章 交換価値の原因についてのスミス及びセイの学説の解説と駁論
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要目 一五七 価値の源泉の問題の主要な三つの解答。一五八 スミスの学説すなわち労働価値説。この学説は労働のみが価値を有することを表明するに止り、何故《なにゆえ》に労働が価値を有するかを説明せず、従ってまた、一般に事物の価値がどこから生ずるかを説明しない。一五九、一六〇 セイの学説、すなわち利用価値説、利用は価値の必要条件であるが充分条件ではない。一六一 稀少性の学説。一六二 ゴッセンの極大満足の条件、それが指示する極大利用は自由競争における極大利用ではない。一六三 ジェヴォンスの交換方程式。それは二人の交換者の場合にしか適用されない。一六四 限界効用。
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一五七 経済学のうちには、価値の原因の問題について、主な三つの解答がある。その一はスミス、リカルド、マカロックのそれであり、イギリス的解答であり、価値の原因を労働に求めるものである。この解答は余りに狭隘《きょうあい》であって、真に価値をもっているものにも、価値の存在を拒否している。その二はコンジャック、セイのそれであり、価値の原因を利用に置く。いずれかといえば、これはフランス的解答である。この解答は余りに広汎に過ぎ、実際に価値をもたない物にも、価値を認めている。最後にその三は適切なものであり、ブルラマキ(Burlamaqui)及び私の父オーギュスト・ワルラス(Auguste Walras)の解答であって、価値の原因を稀少性に置く。
一五八 スミスはその学説を国富論の第一編第五章に、次の言葉でいい表わしている。
「すべての物の真の価格、すべての物がこれを獲《え》ようとする人に真実に費さしめる所のものは、彼がこれを獲るために費さなければならぬ労働と苦痛とである。すべての物が、これを獲得した人またはこれを処分しようとする人またはこれをある他の物と交換しようとする人に対し値する所は、この物の所有が彼をして省くことを得させる苦痛と面倒、または他の人に課することを得させる苦痛と面倒である。人が貨幣または商品で購う物は、私共が私共の額に汗して得る所の物と同じく、労働によって得られる。この貨幣と商品とは実にこの苦痛を省くものである。それらは労働のある一定量の価値を含む。これを私共は、等しい量の労働の価値を含むと考えられる物と交換する。労働は最初の貨幣であり、すべての物の購買に支払われる貨幣である。世界のいかなる富も、原本的には労働をもってしか購い得ない。これらを所有する者またはこれらを新しい生産物と交換しようとする人に対してのこれらの価値は、これらが購買し、支配せしめるであろう所の労働量とまさしく相等しいのである。」
この理論に対しては、多数の論駁があったが、これらは一般に適切ではなかった。スミスの理論は、その本質において、価値があり交換せられるすべての物は、労働が種々な形式をとったものであり、労働のみが社会的富のすべてを構成すると主張するものである。そこで人々は、価値があって交換せられる物でありながら、労働によって成立していない物を示し、あるいはまた、労働以外に社会的富を構成する物があることを示して、スミスのこの理論を拒否しようとする。だがこの論駁も合理的ではない。労働のみが社会的富を構成するかまたは労働は社会的富の一種を構成するに過ぎないかは、私共には余り関係のない問題である。それらのいずれの場合にも、何故《なにゆえ》に労働には価値があり、また何故《なにゆえ》に労働は交換せられるのであるか。ここに私共の関する問題があるのであるが、スミスはこの問題を提出もしなければ、解決もしなかった。ところで労働が価値あり、交換せられるものであるとしたら、それは、労働が利用をもちかつ量において限られているからである、すなわち労働が稀少であるからである(第一〇一節)。故に価値は稀少性から来るものであり、稀少なすべての物は労働を含むと否とにかかわらず、労働のように価値をもち、交換せられる。だから価値の原因を労働であるとする理論は、余りに狭隘であるというよりは、全く内容の無い理論であり、不正確な断定であるというよりは、むしろ根拠のない断定である。
一
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