既にカナール(Canard)に賞を与えながら、クールノー(Cournot)の価値を認めないで、二重の誤《あやまり》をなしているのであるが、この学士院は自らの名誉のために、機会を捕えて経済学上のその力量をもう少し華々しく確立しておくがよかろうと思う。しかし私の場合には学士院の冷遇はむしろ幸《さいわい》となった。なぜなら私が二十七年前に主張した学説は、それ以来、その内容の点でもその形式の点でも、著しい進歩をなしたから。
 事情に通暁したすべての人々がよく知るように、価格は充された最後の欲望の強度すなわち Final Degree of Utility あるいは Grenznutzen に比例するとの学説、ジェヴォンスとメンガー氏と私とがほとんど時を同じゅうして考え出した理論、全経済学の基礎を作ったこの理論は、イギリス、オーストリア、アメリカ、そのほか純粋経済学が研究せられ教授せられる諸国において、経済学上の定説となった。
 ところで交換理論の原理が経済学に入ってから、生産理論の原理もまたまもなく経済学に入ってこざるを得なかったが、事実において入ってきた。ジェヴォンスは「経済学の理論」の第二版において、第一版に認めなかったものを認めた。それは、利用の最終度が生産物の価格を決定する瞬間から、これがまた生産的用役の価格すなわち地代、賃銀、利子を決定するというにある。なぜなら自由競争の制度の下においては、生産物の販売価格は生産的用役から成る生産費に等しくなるからである。ジェヴォンスは、彼の著書の第二版の序文の終りのはなはだ興味深い十頁(Pp. XLIII−LVII)において、イギリス派の方式または少くともリカルド・ミル派の方式を全く変えて、生産的用役の価格により生産物の価格を決定する代りに、生産物の価格により生産的用役の価格を決定せねばならぬと明言している。この大きな発展の可能である指示はイギリスでは直ちに追随はされなかった。かえってジェヴォンスの思想に対する反動が起って、リカルドの生産費理論が有力となった。しかるに自ら限界利用の概念を把握したオーストリアの経済学もまた、この結果を論理的に生産理論のうちに押しつめて、生産物の価値と生産手段の価値との間に、私が生産物の価値と原料及び生産的用役の価値との間に導き入れた関係と全く同じ関係を導き入れたのである。
 けれども我々の一致は、資本化の理論に関してはそれほど完全ではない。この問題についてメンガー氏は 〔Jahrbu:cher fu:r Nationalo:konomie und Statistik, tome XVII〕 中に彼の研究「資本理論について」(Zur Theorie des Kapitals)を公にし、またインスブルック(Innsbruck)の教授ベェーム=バウェルク氏はその著書「資本と利子」(Kapital und Kapitalzins)(一八八四年、一八八九年)を完成した。ベェーム=バウェルク氏はこの書物の中で、資本利子の事実を現在財の価値と将来財の価値との差から引き出した(九)[#「(九)」は行右小書き]。私は、ここではベェーム=バウェルク氏と意見を同じゅうしないことを言明せねばならぬし、かつ何故《なにゆえ》に私が氏の理論に賛成し得ないかを、簡単に説明せねばならぬ。だがこれは、この理論または少くともこの理論が含む所の利子率決定の理論を数学的に築き上げた上でなくては、なされ得ない(一〇)[#「(一〇)」は行右小書き]。
「n年の後にしか引渡されないでAなる価値をもつべき物を想像し、この物が今直ちに引渡されるとすると、利子の年率がiであるとき、それは現在
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だけの価値しかもたない。このことは商業算術書を開けば直ちに解る。しかしこの方式の上に利子率決定の経済理論を立てるには、まずいかにしてA’[#「A’」は縦中横]が決定するかを明らかにせねばならぬし、次に右に与えられた方程式に従ってiがAから導き出される所の市場を示さねばならぬ。私はこの市場を求めても、見出すことが出来ない。これ、私が(償却費と保険料とを捨象して)iを方程式
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から導き出すことを主張するゆえんである。ここで pk[#「k」は下付き小文字], pk'[#「k'」は下付き小文字], pk''[#「k''」は下付き小文字] は新資本(K)、(K')、(K'')の用役の価格であり、交換及び生産理論によって決定せられる。Dk[#「k」は下付き小文字], Dk'[#「k'」は下付き小文字], Dk''[#「k''」は下付き小文字] ……は製造
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