、氏が交換方程式と名付ける基本方程式の上に立っているが、この交換方程式は、私の出発点となっていて私が最大満足の条件と呼ぶ所のものに全く相等しい。これはまことに注目すべき事実である。
「またジェヴォンス氏は特にこの新方法の一般的哲学的解説をなそうと努力し、かつこれを交換理論、労働理論、地代理論、資本理論へ応用すべき基礎を作ろうと努力している。私はこの分冊では特に交換の数学的理論を深奥な方法に拠って解説しようと努めた。だからジェヴォンス氏の方式の先駆性を認めねばならぬが、若干の重要な演繹については、私は私の権利を主張することが出来る。ここにはこれらの点をいちいち挙げない。有能な読者はこれらの点をよく認め得るであろう。私としては、ジェヴォンス氏の著書と私の著書とは互に他を妨げないで、かえって互に補充し合い、不思議にも互に他の価値を増加し合うものであるといえば足りるのである。これは動かすべからざる私の確信である。私は、これを証明するために、イギリスの勝《すぐ》れた経済学者のこの好著をまだ読まないすべての人々に熱心にすすめる。」
第一版の第二分冊は一八七七年に出版せられた。私はこの中で生産的用役の価格(賃銀、地代、利子)の決定の理論と純収入の率の決定の理論とを説いたが、これらはジェヴォンスのそれとは著しく異っている(四)[#「(四)」は行右小書き]。
一八七九年に、当時ロンドン大学教授であったジェヴォンスは「経済学の理論」の第二版を公にし、この第二版の序文中で(Pp. XXXV−XLII)、数理経済学の建設の先駆性を一部分ドイツ人ゴッセンに認めている。私がこの先駆性をジェヴォンスに認めたことは、既に読者が知る如くである。ゴッセンについて私は、一八八五年四月及び五月の 〔Journal des e'conomistes〕 に、「忘れられた経済学者ヘルマン・ハインリッヒ・ゴッセン」と題する一文を公にした。その中で私は、ゴッセンの生涯と著書についての解説を与え、併せて、二人の先駆者の著作があるにもかかわらず、新理論のうち結局私自身のものとして残されるべき部分を定めようと努力した(五)[#「(五)」は行右小書き]。この点を、本書の第十六章の末尾の一節で、再び明らかにするであろう。その所で読者は知られるであろうように、交換において稀少性を考えることのいかに重要であるかは、一八七二年に私共三人とは独立に、ウィーン大学の経済学教授カール・メンガーによってもまた認められ、立証せられているのである。
私は、ゴッセンが利用曲線についての先駆者であるのを認め、またジェヴォンスが交換における最大利用の方程式についての先駆者であるのを認める。だが私はこれらの思想を借用したのではない。私は私の経済学説の根本原理を父オーギュスト・ワルラス(Auguste Walras)から借用し、この学説の解説のために函数計算を用いる根本原理をクールノーから借用したのである。これらのことを私は最初の論文で明言し、またそれ以後のあらゆる機会に明言している。今ここでは、この学説が本書の各版で順次にいかに正確さを加えられ、展開せられ、補充せられたかを説明しようと思う。
私は交換方程式、生産方程式、資本化及び信用方程式の解法に、その全体についてはほぼ元のままとしながら、いくつかの細かい部分について修正を加えた。
交換に関しては諸商品の最大利用の定理(六)[#「(六)」は行右小書き]の基礎的証明のほかに、次の二つの証明を加えた。
(一)利用曲線が連続な場合につき、微分学の通常の記号法による証明――この証明は後に新資本の最大利用の定理を証明するに必要である。(二)利用曲線が不連続な場合の証明。
生産に関しては、均衡の成立のための予備的摸索を仮定し、かつこの運動は有効になされるのではなく、取引証書によって(sur bons)なされると仮定した。そして私はこの仮定をそれ以後においても維持した。
資本化については、交換方程式と最大満足の方程式とから、貯蓄の函数を理論的に演繹し、これを経験的に導き出すことを避けた。そして、純収入率の均等もまた新資本から得られる利用の最大の条件であることを、新定理として証明した。第一版を公にときには、私は新資本用役の最大利用に関する二つの問題のただ一つしか認めることが出来なかった。詳言すれば、ある個人がその収入を種々の欲望の間に配分するに当り資本の量をその当然の性質によって与えられていると考えまたは偶然に決定せられていると想像するときに起る問題、すなわち私が諸商品の最大利用の問題と呼び、数学的には資本用役の稀少性がその価格に比例せねばならぬことによって解かれる問題しか、第一版では私は考えていなかった。しかるに第二版を準備していたとき、なお一つの問題があるの
前へ
次へ
全143ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
手塚 寿郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング