の方が僕より二倍も三倍もえらいんだよ。」と、申しました。
石之助は、ますます、びつくりするばかりでした。殿様はまた申しました。
「君、硯箱だの時計だのを、もらひたさに、勉強するやうではだめだぜ。学問を勉強しなくてはならないよ。本当の学問を……」
そのとき石之助は、この落第生の殿様を、何だかえらい人のやうに思ひました。
それから石之助は、勉強の目的をかへました。今までのやうに、褒美をもらつたり、一番になつたりするための勉強ではなく、自分の志したお医者になるための学問を、必死に勉強しました。
大学を出る時、茂丸は理科の一番でした。石之助も医科の一番でした。
落第生の殿様は、その頃《ころ》すつかり、からだが達者になつて、北海道で牧畜をして大成功してゐました。
「殿様の牛乳配達」といふ記事が、日本中の新聞にのつたのは、二人が大学を卒業した年の夏でした。
底本:「日本児童文学大系 第一一巻」ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「特選童話 三年生」金の星社
1938(昭和13)年7月
初出:「金の星」金の星社
1926(大正15)年
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