れ》も通ることが出来ないぢやないか。と、呶鳴《どな》る者がありました。」
「その、大輔を叱《しか》つた者は、何者であつたか。」
「それは、あの、法螺貝《ほらがひ》を吹いて、御祈祷《ごきたう》をいたします、山伏《やまぶし》の一人でございました。」
「山伏は、どんなことをしたか。」
 皇子さまは、だんだん、お話が面白くなつて来ましたので、御機嫌《ごきげん》が、直つてまゐりました。
「私《わたし》は、その山伏に、そんなに、人を呶鳴りつけるものではない。この岩は、恐れ多くも寛成の皇子さまから、天皇さまに御献上なさる大事のお土産でございますから、どうしてもこれは、御所までもつてまゐらねばならない、岩でございます。と、申しました。すると、山伏は急に、言葉を和げて、ああ、皇子さまの、お土産でございますか。それならば、私が其の岩を、少し小くしてあげませう。と、云つて、手にもつてゐた、数珠をもみながら、あじやら、もじやら、うじやら、もじやらと、呪文《じゆもん》を、唱へはじめました。」
 皇子さまは、にこにこお笑ひになつて、
「岩は小くなつたか。」と、申されました。
「はい、岩はだんだん、小くなりまして、
前へ 次へ
全7ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング