蚊帳の釣手
沖野岩三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)万作《まんさく》は
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十二年|経《た》つて
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ずん/\と
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一
万作《まんさく》は十二歳になりました。けれども馬鹿《ばか》だから字を書く事も本を読む事も出来ません。数の勘定もやつと一から十二までしか知らないのでした。
「おい万作! お前は幾歳《いくつ》になつた。」と問ひますと「十二です!」と元気よく答へますが、其時「来年は何歳《いくつ》になる?」と問ひますと、もう黙つてしまひます。それは、十二の次が十三だといふ事を知らないからであります。だから毎日々々お友達から、「馬鹿万」と云はれて、からかはれました。
夏の初め頃《ころ》でした。万作は朝早く起きて顔を洗つて「お父さんお早うございます。おつ母さんお早うございます。」と何時になく叮嚀《ていねい》にお辞儀を致しました。
お父さんもおつ母《か》さんも吃驚《びつくり》して「まア、万作! お前は大変賢くなつたものだネ。」
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