山の花を持って来て下さいました。』という。
一つの教室に可愛い子供が勉強している。そのうちの五六人を先生の机のぐるりに集めて、立ちながら問答している。四方の壁を黒板にして、そこへ生徒が総出になって運算を書きつけている。先生が来て直してくれるまで、自分の書いた問題の下に立っている。誰がどんなに間違っているか、いないかは全級の生徒に一目瞭然である。
次の教場ではよく肥えた女教師が、生徒の勉強している机の上に、デッカイお尻を据えて平気で教えている。かと思えば、生徒は生徒で其のお尻のかげで、チョコレートを頬ばりながら先生の講義をきいている。神経質らしい校長のお婆あさんが巡視に来ても、先生のお尻は机の上から一分も一寸も離れない。生徒の教科書をのぞくと、アメリカンヒストリーである。丁度其日習っている所にザ・レエボアムーヴメントの見出しがあった。先生は内地人と、外国人との労働競争の事について詳しく教えている。
小学生に対して労働運動、労働問題を教えている現象を見た私は、恐るべきものはアメリカの軍隊でなく、此の教科書だと思った。しかも、それを習っているのは、日本から、支那から、ポルトガルから、スペインから、イタリーから渡って行った労働者の子供たちである。しかし其の白、黄まぜまぜの顔が楽しそうに労働問題の話をきいている。
この市民権をもつ子供たちが成長して選挙権をもつ頃、排日問題は自然に解決出来るであろう。気長く其の時を待つことだ。現にハワイでは日本人が数名下院議員に当選してい、副検事長も日本人で千二百円の月俸を得ている。内鮮融和問題も、先ず児童の共学から出直さなければなるまい。
底本:「世界紀行文学全集 第十七巻 北アメリカ編」修道社
1959(昭和34)年3月25日
底本の親本:「太平洋を越えて」四条書房
1932(昭和7)年5月
※末尾の「(昭和六年)」は、底本で二作品をまとめた際につけられたものであるので、省きました。
入力:田中敬三
校正:仙酔ゑびす
2006年11月18日作成
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