ました。二人はおほぜいの生徒たちからはなれて、毎日小い紙の旗をもつて、学校のうら庭の、桜の木の下で、ひそひそと、さうだんごとを、してゐました。
ある日、今雄さんが、おうちへ帰ると、ごん七さんは、大きなこゑで、
「今雄、四階の屋根にのぼつて、うちの鬼瓦に、元気をつけてやれ。そして西山の鬼瓦を、にらみつぶすやうに、いつしよけんめいに、赤旗をふつて応援してやれ。」と、申しました。で、今雄さんは、直《す》ぐ四階の屋根にのぼつて、赤旗をふりました。すると、西山の四階からも、京一さんの白い旗が、ちらちらと、動いて見えました。
二人はまた学校で、旗のふり方を、さうだんしました。
ごん七さんは、朝早く起きてみますと、西山の鬼瓦は、朝日を受けて、いきほひよく、こちらを、にらみつけてゐますが、自分のうちの鬼瓦は、うす白く霜をおいて、こごえながら、ふるへてゐるやうに見えました。
ごん八さんは、夕方|為事《しごと》を終つて、東山の方を見ますと、東山の鬼瓦は、夕日にかがやいて、てかてかと、あか黒く光つて、本当に、かみつきさうに見えますが、自分のうちの鬼瓦は、打ちしをれたやうに、泣がほに見えました。
ごん七さんも、ごん八さんも、かんがへました。
今雄さんも、京一さんも、お父さまのする事に、気をつけました。
ある日、京一さんが、学校からかへつて、四階の屋根にのぼりますと、今雄さんは、赤い旗をふつて、
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「ぼくのうちの おにがはらへ、
こんや 金ぱくをぬる。」
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と信号しました。そこで京一さんは、お父さまのごん八さんに、
「お父さま、ぼく、毎日いつしよけんめいに、旗をふるんだけど、どうしても、東山の方が元気がいいから、うちの鬼瓦は、東山の鬼瓦に、まけさうですよ。だから、鬼瓦へ金ぱくを塗つて下さい。さうすると、うちの鬼瓦が、強くなつて、勝つにきまつてゐますから。」と、申しました。
ごん八さんも、うちの鬼瓦を、強くしたいと、思つてゐたところでしたから、
「それは、いいかんがへだ。では早速さうしよう。」と、いつて、にはかに大さわぎをして、一晩中に、鬼瓦の顔一面に、金ぱくをぬりつけました。そして、
「見ろ、明日の朝は、東山の鬼瓦が、おつかなびつくりで、まつぷたつに、われてるぞ。」と、申しました。
夜が明けました。太陽が東の山から、きらきらと、かがやきました。雨戸を開けた、ごん七さんも、ごん八さんも、両方ながら、
「おやおや、どつちの瓦も金色だ。」と、同じやうに一度に叫びました。
今雄さんと京一さんとは、学校の門のところで、出あひました。そして、だまつて、につこり笑つて、手をにぎりました。
その夕方、今雄さんは、学校からかへつて、四階の屋根の上に、のぼりますと、京一さんから、
「ぼくのうちの おにがはらの めのたまに こんや でんきを とりつける。」
といふ信号がありました。そこで、今雄さんは、お父さまの所へ行つて、
「お父さま、うちの鬼瓦が、金ぱくをぬると、西山の鬼瓦も、金ぱくをぬるんだもの。今夜はね、鬼瓦の眼《め》に、百燭《ひやくしよく》の電球を二つ、取りつけて下さいよ。ね、大急ぎで。さうすると、きつと西山の鬼瓦は、降参してまつぷたつに、われてしまひますよ。」と、申しました。それを聞いた、ごん七さんは、
「なるほど、それはいいかんがへだ。」と、言つて、早速電燈会社へたのんで、大急ぎで、鬼瓦の眼に、百燭の電燈を取りつけました。そして五時になると、ぱつと、鬼瓦の目に、電気のつくのを、たのしんで待つてゐました。
五時前から、ごん七さんは、四階にのぼつて、障子を開けて、西山の方をながめてゐました。同じやうに、ごん八さんも四階の窓から、東山の方を、ながめてゐました。そして、電燈のついた時、二人は一度に、
「おやおや。これはどうした事だ。」と、叫びました。
あくる朝、学校の入口で、京一さんと、今雄さんとは、ばつたり出あひました。そして、二人は黙つて、手をにぎりながら、につこり笑ひました。
夕方、京一さんが、四階の屋根にのぼりますと、今雄さんは、旗をふつて、相図をしました。
「ぼくのうちの おにがはらの くちへ はなびを しかけて 五じから 三十ぷんおきに ひをふくやうに します。」それを見た京一さんは、お父さまの所へ行つて、
「お父さま、こつちの鬼の眼に、電気をつけると、向ふの鬼瓦にも、電気がつくんだもの、今夜は、あの鬼瓦の口から、三十分毎に、火を吹くやうに、花火をしかけてやらうぢやありませんか。さうすれば、東山の鬼瓦も降参して、角を折つてしまひますよ。」と、申しました。
ごん八さんは、大へん喜んで、直ぐ、花火屋さんを呼んで来て、鬼瓦の口へ、花火をしかけました。そして、家内や職人たちが、みんな
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