のが若い娘であつた。茶釜には番茶を詰めた布袋が入れてあるので、ぬるいばかり何時でも眞赤に澁の樣な茶が出て居るのである。其茶を五郎八茶碗《ごろはちぢやわん》といふ大きな茶碗に汲んで、冠つて居た虱絞《しらみしぼ》りの手拭を外して茶を出したのである。竹の簀の子が踏む度にぎしぎしと鳴る。其娘が思ひも掛けぬ美しさなので、只恍惚としてしまつてそれからといふものは獵といへば屹度娘の家をおとづれてさうして生涯の語らひが出來たのだとかういふ事であつたのだと想像して見た。おまへの母の眉よりはよかつたといつて微笑するおばあさんは當時のことを幾らか聞き知つて居るだらうと思ふが決して語つたことがない。それといふのは律義な人はかういふ成立ちの事柄をも一家の恥辱のやうに思つて居るからである。それ故其當時のことは自分で想像して見なければならぬ。只美男であつたといふことゝ美しい娘であつたといふことは事實である。
 其非常な美しい娘であつたのが太つたおばあさんになつてから何をしたかといふと明けても暮れても釣ばかりして居た。掘端へ薦を敷いて厭になるまでは夜中でも釣つて居る。それで恐怖といふことを知らなかつた人なので、ゆんべ
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