私は暑いので荷物にして来た衣物を宿の店先へ投げて浜へ駆けつけた。やがて船からは松魚をぽん/\と浅い水に投げる。船からおりた漁師が裸のまゝ松魚の尻尾を攫んで砂の上へ運ぶ。幾十人の浜の子は水にひたりながら先を争うて松魚を運ぶ。松魚は十づゝ其頭を揃へて砂の上にならべられる。人々が騒々しく其松魚を囲んで立ち塞がる。幾十人の子供は裸のまゝ一斉に声を立てゝ叫びはじめた。「くなんしよ/\」と叫ぶ。後には只「なんしよ/\」と声を限りに叫ぶ。手伝つた賃銭に松魚を呉れと叫ぶのである。立ち塞つた人々は其叫声には頓着なしに松魚の処分をしてずん/\外へ運んで行く。やがて一尾の松魚が子供の一人の手へ渡された。子供は直ちに走つていつてしまつた。私が宿へもどる時彼等は松魚を銭に換へたと見えて各一文二文と分配しつゝある所であつた。数日前とは異なつて港は何となく活々として来た。私は再び宿へもどつて来た時、宿の前には何かの肉であらうと思はれる綿のやうな黄色な然かも大きなものゝ浮んで居るのを見た。半ば岸へ揚げられて波にゆられて居る。それが酷い臭気を放つて居た。
「どちらの方へ、はあ炭坑へお出でになりましたか」
主人は私へ挨
前へ
次へ
全66ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング