立つ。女は燃やしては棄て/\非常に忙しげに手を動かして居る。私はふと燃えさしの麦束の散らばつたあたりに地にひつゝいて白い花の簇がつて居るのを見た。それは野茨の花であつた。軟かな長い枝がつやゝかな緑の葉をつけてすつと偃ひ出して居る。燃えさしの火が白い花を焦して居た。高低のある丘にはそこにもこゝにも麦を焼く煙が穏かな空気に浮んで行く。畑の女はたま/\の晴を見定めて麦の仕納をして畢はうといふのらしい。私はかういふ農事の仕方を此時はじめて見た。私は珍らしさに暫く立つて見て居た。空は一杯に晴れた。有繋に日は暑く照つて来た。私は爽快な丘の上を歩いた。海が丘の先に見え出した。海は一足毎に前に拡がつて来る。蟠屈した松が断崖に臨んで居る。私は好奇心から松の枝を攀ぢて見た。瞰おろすと波は唯白い泡である。岸に立つて見る波は大きいのも小さいのも必ず立ちあがつて来る。瞰おろす波は唯白い泡がざわ/\と動いて四方へ拡がるのみである。私は暫く其綺麗な白い泡の変化を見て居た。遠くを見ると褐色の断崖が連つて沖に相対して居る。打ちつける波が描く白い一線が水陸を画して居る。そこを去る時私はふと枝の間から近くに船の泛いてるのを
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