を形つて行く、百姓は皆ひどい貧乏である。だが櫟がずん/\と瘠地に繁茂して行くやうに村には丈夫な子供が殖えて行く。或時は其聚つて騒ぐ声が夕焼の冴えた空に響いて遠く聞えることがある。私は自分の村を好んで居る。さうして櫟林を懐しいものに思つて居る。櫟林は薪に伐るのが目的なので団栗のなるまで捨てゝ置くのは一つもない。それで冬になつて木枯が吹きまくつても梢には赭い枯葉がぴつしりとついて居る。春の日が錯綜した竹の葉の間を透して地上に暖か相な小さな玉を描くやうに成つてすべての草木がけしきばんで来ても、櫟の枯葉は決して落ちまいとしがみついて居る。「ぢい」と細い声を引いて松雀がそこに鳴くやうになれば地上には幾らかの青味を帯びて来る。然し櫟林は依然として居る。四月になつて、春がもう過ぎて畢ふと喚び挂けるやうに窮屈な皮の間から手を出して棕櫚の花が招いても只凝然として死んだやうである。諦めたやうに棕櫚の花がだらけて、春はもうこぼれたやうに残つて居る菜の花にのみ俤を留めて来た時其赭い枯葉を咄嗟に振ひ落して蘇生つたやうになる。さうして僅か四五日のうちに新樹の林になるのである。いつて見れば春といふ季節は櫟林と何等の
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