私はそれを羞ぢるよりも先づうまく匿しおほせて私の身を保ち得たことを心窃に悦ばぬ訳には行かぬ。私は僅に危い刃の先を免れたのであつた。世上を顧みても自分の非行を衷心から悔悟し得るものが果して幾人あるであらう。私はもうおいよさんに未練はない。今日まで思ひ出させては私をぢれつたくさせるのはおいよさんではなくて隣座敷の女である。女はいつまで経つても私には了解が出来ぬ。女は到底解けない謎である。私はうつかり女に手を出すことはもう一度で懲りた。私の心をいつまでもぢらすのはその隣室の客である。



底本:「ふるさと文学館 第九巻【茨城】」ぎょうせい
   1995(平成7)年3月15日初版発行
底本の親本:「長塚節全集 増補版2」春陽堂書店
   1977(昭和52)年発行
初出:「ホトトギス」
   1910(明治43)年9月号
※「一ケ月」「二三ケ月」の「ケ」を小書きしない扱いは、底本通りにしました。
入力:林 幸雄
校正:小林繁雄
2002年12月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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