、どつから聞いたがなあといつて笑つた、「さういふ事があつたんでよと自分を見返つて更に叔父が云つた、自分も可笑しくなつて笑つた、そのうちに各の顏が赤くなつてきた、彼等は尚なんだとか無駄口を叩いて居る内にも頻りに水面に目を注いて居る、苫舟からぢき前に舟にならんで一間位宛に五本の竹棒が立つて、それから向へ直角に五本、それからまたこちらの竹棒にならんで五本立つて居る、丁度三方に垣根をゆつたやうになつて一方は明いて居る、その明いて居るところから下の方へ例のサヤといふのが延びて居る、それだけのことは苫のぢき下から吊つてある明りでよくわかるのではあるが、それがどんな鹽梅に獲物を引ツ掛けるか薩張り分らないので、ざつと説明を求めると痩せぎすな男が「まあいつて見りや蚊帳を倒に吊つたやうなものさ底に網があつてそれからこの竹の立つたところが網で下の方の明いてるところがやつぱり網だがこいつは寢せてあるのさ、それで畜生へえツたところでこの網を引ツ張ると、網が起きてきて逃げられなくなツちまふのさと小べりのところに繋いである麻繩をさし示した、更に彼は「それからこの中のところに極あらツぽい網のやうなのを立てゝ置いて上に鐵がくつゝいてるから、畜生めそれを潜りせえすりやから/\つと鳴るからね、そん時これを引ツ張るわけなのさと先づわかり易いやうにと話して呉れた、しかし自分はもはや一疋位引ツ掛り相なものだと思つて心待ちで堪らない、酒もいつかそつちのけにされてみんな網の方へのみ目を注いてきた、靜かな夜は益※[#二の字点、1−2−22]靜かに成つて遙か向ふの岸と思はれるあたりがどんよりと黒く見えるのがなんとなく淋しく、そろ/\更けはじまつた、叔父と自分との間に夾まつて居る從弟はもう横になつて仕舞つた、舟や竹棒に塞かれて居るので水は極めて低い響をなして流れ去る、よく/\ひつそりして仕舞つた時にから/\んと突然に鈴が鳴つた、それツといふので二人の手が小べりの綱へかゝつた、爺さん頻りに息をはづませながら「どうも今なあんまり音がえらかつたから下手にすつと返りかも知れねえ、利口な畜生はそろツと行つてさきの網へ突き當ツちや急に引き返へすのがあんですからね、そん時はそれ音が大けえんです、今のがなども返りでねえけりや可いがと自分等の方を見ていつた、綱はしつかりと握つた儘である、網のなかは寂然として音沙汰もない、「そうれどうして
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