るのである。橋は暫くは空橋で其下には蜀黍畑が作つてある。鳶色の重い穗はすく/\と延びて橋に屆かうとして居る。左右は孰れも茫々として際涯もないかと思ふ程蜀黍畑が連續して居る。此長橋の上に立つて彌彦山を顧ると既に遠くなつた榛の木の上に何時の間にか莊嚴な姿になつて峙つて居た。
 越後も國境を越えて蒲原の平野があらはれゝば同時に何處からでも屹度此の秀麗な彌彦山が目につく筈でなければならぬ。此くして彌彦は遂に越後の名山たるを失はぬ。
[#地から1字上げ](明治四十年五月二十五日發行、馬醉木 第四卷第二號所載)



底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
   1977(昭和52)年1月31日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2000年5月10日作成
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