へ口《くち》を當《あて》ていつた。今更《いまさら》のやうに近所《きんじよ》の者《もの》が頼《たの》まれて夜通《よどほ》しにも行《ゆ》くといふことに成《な》つた。
次《つぎ》の日《ひ》の午餐過《ひるすぎ》に卯平《うへい》は使《つかひ》と共《とも》にのつそりと其《そ》の長大《ちやうだい》な躯幹《からだ》を表《おもて》の戸口《とぐち》に運《はこ》ばせた。彼《かれ》は閾《しきゐ》を跨《また》ぐと共《とも》に、其《その》時《とき》はもう只《たゞ》痛《いた》い/\というて泣訴《きふそ》して居《ゐ》る病人《びやうにん》の聲《こゑ》を聞《き》いた。
「何處《どこ》が痛《いた》いんだ、少《すこ》しさすらせて見《み》つか」勘次《かんじ》が聞《き》いても
「背中《せなか》が仕《し》やうがねえんだよ」と病人《びやうにん》はいふのみである。
「お品《しな》さん、おとつゝあ來《き》たよ、確乎《しつかり》しろよ」と近所《きんじよ》の女房《にようばう》がいつた。それを聞《き》いてお品《しな》は暫時《しばし》靜《しづ》かに成《な》つた。
「品《しな》どうしたえ、大儀《こは》えのか」寡言《むくち》な卯平《うへい》は此《
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