彼《かの》ぼんやりした心《こゝろ》が其處《そこ》へ繋《つな》がれたやうに釣瓶《つるべ》を凝視《ぎようし》した。彼《かれ》は暫《しばら》くしてから庭《には》に立《た》つた。彼《かれ》は其《その》癖《くせ》の舌《した》を鳴《な》らしながら釣瓶《つるべ》へ手《て》を掛《か》けた。釣瓶《つるべ》の底《そこ》には僅《わづか》に保《たも》たれた水《みづ》に埃《ほこり》が浸《ひた》されて沈《しづ》んで居《ゐ》た。外側《そとがは》は青《あを》い苔《こけ》の儘《まゝ》に乾燥《かんさう》して居《ゐ》た。彼《かれ》は鍵《かぎ》の手《て》の杙《くひ》を兩手《りやうて》に持《も》つて其《その》大《おほ》きな身體《からだ》の重量《ぢうりやう》を加《くは》へて竪《たて》に壓《おさ》へて見《み》た。小《ちひ》さな杙《くひ》は毎日《まいにち》水《みづ》の爲《ため》に軟《やはら》かにされて居《ゐ》る土《つち》へぐつと深《ふか》くはひつた。鍵《かぎ》の手《て》は深《ふか》く釣瓶《つるべ》の内側《うちがは》を覗《のぞ》いて居《ゐ》たので先刻《さつき》よりも確乎《しつか》と釣瓶《つるべ》を引《ひ》き止《と》めた。彼《かれ》はそ
前へ 次へ
全956ページ中843ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング