しつとりとした一|種《しゆ》の潤《うるほ》ひが火《ひ》の足《あし》を引止《ひきと》めるやうな力《ちから》はなくて一|度《ど》吸《す》へば直《すぐ》に灰《はひ》になつて、煙脂《やに》で塞《ふさ》がらうとして居《ゐ》る羅宇《らう》の空隙《くうげき》を透《とほ》して煙《けぶり》が口《くち》に滿《み》ちる時《とき》はつんとした厭《いや》な刺戟《しげき》を鼻《はな》に感《かん》ずるのであつた。葡萄《ぶだう》の葉《は》を他人《ひと》に勸《すゝ》められて見《み》たが、此《こ》れも到底《たうてい》彼《かれ》の嗜好《しかう》を欺《あざむ》くことは出來《でき》なかつた。彼《かれ》は煙管《きせる》を手《て》にすることが慾念《よくねん》を忘《わす》れ得《う》る方法《はうはふ》でないことを知《し》つて、彼《かれ》は丁度《ちやうど》他人《たにん》に對《たい》する或《ある》憤懣《ふんまん》の情《じやう》から當《あ》てつけに自分《じぶん》の愛兒《あいじ》を夥《したゝ》かに打《う》ち据《す》ゑる者《もの》のやうに羅宇《らう》を踏《ふ》み潰《つぶ》した。然《しか》しそれを誰《たれ》も見《み》ては居《ゐ》なかつた。それでも
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