《しかた》なしに小鍋《こなべ》を火鉢《ひばち》へ掛《か》けた。彼《かれ》は微《かす》かに白《しろ》い水蒸氣《ゆげ》が鍋《なべ》から立《た》ち始《はじ》めた時《とき》お玉杓子《たまじやくし》で掻《か》き立《た》てゝ吸《す》つて見《み》たが猶且《やつぱり》冷《つめ》たかつた。彼《かれ》は復《ま》た火鉢《ひばち》へ麁朶《そだ》を足《た》して重箱《ぢゆうばこ》の飯《めし》を鍋《なべ》へ入《い》れた。火鉢《ひばち》の割合《わりあひ》には大《おほ》きな鍋《なべ》に頬《ほゝ》が觸《さは》るばかりにしてふう/\と火《ひ》を吹《ふ》いた。鍋《なべ》のぐず/\と濁《にご》つた聲《こゑ》を立《た》てゝ居《ゐ》る間《あひだ》彼《かれ》は皺《しな》びた大《おほ》きな手《て》を火《ひ》に翳《かざ》しながら目《め》を蹙《しか》めて居《ゐ》た。彼《かれ》は凝然《ぢつ》と遠《とほ》くへ自分《じぶん》の心《こゝろ》を放《はな》つたやうにぽうつとして居《ゐ》ては復《また》思《おも》ひ出《だ》したやうに麁朶《そだ》をぽち/\と折《を》つて燻《く》べた。
 彼《かれ》は例年《いつ》になく身體《からだ》の窶《やつ》れが見《み》え
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