つに成《な》つてるのである。
 冬至《とうじ》の日《ひ》も靜《しづ》かであつた。此《こ》の頃《ごろ》になつてから此處《ここ》ばかりは忘《わす》れたかと思《おも》ふやうに西風《にしかぜ》が止《や》んで居《ゐ》る。晝《ひる》の一《ひと》しきりは冷《つめ》たい空氣《くうき》を透《とほ》して日《ひ》が暖《あたゝ》かに射《さ》し掛《か》けた。お品《しな》は朝《あさ》から心持《こゝろもち》が晴々《はれ/″\》して日《ひ》が昇《のぼ》るに連《つ》れて蒲團《ふとん》へ起《お》き直《なほ》つて見《み》たが、身體《からだ》が力《ちから》の無《な》いながらに妙《めう》に輕《かる》く成《な》つたことを感《かん》じた。自分《じぶん》の蒲團《ふとん》の側《そば》まで射《さ》し込《こ》む日《ひ》に誘《さそ》ひ出《だ》されたやうに、雨戸《あまど》の閾際《しきゐぎは》まで出《で》て與吉《よきち》を抱《だ》いては倒《たふ》して見《み》たり、擽《くすぐ》つて見《み》たりして騷《さわ》がした。
 勘次《かんじ》はおつぎを相手《あひて》に井戸端《ゐどばた》で青菜《あをな》の始末《しまつ》をして居《ゐ》る。根《ね》を切《き》つて
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