俺《お》らが身上《しんしやう》なんざ潰《つぶ》れても間《ま》にやえやしねえ、厭《や》だにもなんにも」
「そんなこと云《ゆ》つたつておめえ、彼《あれ》だつて獨《ひとり》でゝも居《ゐ》んぢやなし持《も》つもの持《も》つて働《はたら》くのに三十|錢《せん》や五十|錢《せん》の家賃《やちん》の拂《はら》へねえことも有《あ》んめえな、それも何《なん》ならおめえ一月《ひとつき》でも二月《ふたつき》でも見試《みため》して、そん時《とき》見込《みこみ》なけりや身拔《みぬけ》しても管《かま》えやしねえな」
「そんでも厭《や》だよ、俺《お》らさうい噺《はなし》ぢや聞《き》きたくもねえ」勘次《かんじ》は素氣《すげ》なくいつてすいと庭《には》へ立《た》つて復《ま》た夏蕎麥《なつそば》へ手《て》を掛《か》けた。
「酷《ひど》く忙《いそが》しいこつたな」おつたは口《くち》を引《ひ》き締《し》めて勘次《かんじ》の後姿《うしろすがた》を見《み》た。
「忙《いそが》しいとも田《た》の草《くさ》もまあだ掻《か》きやしねえんだ、土用《どよう》になつてからだつて幾《いく》らも照《て》りやしめえし、降《ふ》つてばかし居《ゐ》つ
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