かず、又《また》近《ちか》く立《た》つた其《そ》の姿《すがた》を眼《め》に映《うつ》さない譯《わけ》には行《ゆ》かなかつた。彼《かれ》は蕎麥《そば》を攫《つか》むのを止《や》めておつたの方《はう》を向《む》いた。彼《かれ》は蹙《しが》めて居《ゐ》た顏《かほ》に少《すこ》し極《きま》りの惡相《わるさう》な一|種《しゆ》の表情《へうじやう》を浮《うか》べた。
「何《なん》でえ※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、277−15]等《あねら》」勘次《かんじ》は無意識《むいしき》にさういつた。彼《かれ》の胸《むね》のあたりに湧《わ》き出《いづ》る汗《あせ》は、僅《わづか》に曲折《きよくせつ》をなしつゝ幾筋《いくすぢ》かの流《なが》るゝ途《みち》を作《つく》つて居《ゐ》る。其處《そこ》には蕎麥《そば》の幹《から》から知《し》られぬ程《ほど》づつ立《た》つ埃《ほこり》が付《つ》いて濕《しめ》つて居《ゐ》る。ぢり/\と汗腺《かんせん》から搾《しぼ》れ出《いづ》る汗《あせ》が其《そ》の趾《あと》つけられた流《なが》れの途《みち》を絶《た》たないで其處《そこ》だけ蕎麥《そば》
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