んじ》は風呂敷《ふろしき》から袋《ふくろ》を出《だ》してお品《しな》の枕元《まくらもと》へ置《お》いて
「米《こめ》これだけ殘《のこ》つたから持《も》つて來《き》たんだ、あつちに居《ゐ》ればえゝが幾日《いつか》でも明《あ》けると炊《た》かれつちやつても仕《し》やうねえかんな、そんぢや此《こ》りやおつうげやつて置《お》くんだ」
 勘次《かんじ》は米《こめ》の小《ちひ》さな袋《ふくろ》をおつぎへ渡《わた》した。
「袋《ふくろ》なんぞ又《また》何《なん》だと思《おも》つたよ」お品《しな》は輕《かる》くいつた。
「それでも薪《まき》は持《も》つて來《く》る譯《わけ》にも行《い》かねえから置《お》いて來《き》つちやつた」勘次《かんじ》は自《みづか》ら嘲《あざけ》るやうに目《め》から口《くち》へ掛《か》けて冷《つめ》たい笑《わらひ》が動《うご》いた。
「お品《しな》、足《あし》でもさすつてやんべぢやねえか」勘次《かんじ》はお品《しな》の裾《すそ》の方《はう》へ行《い》つた。
「えゝよ勘次《かんじ》さん、俺《お》ら今日《けふ》は日《ひ》のうちから心持《こゝろもち》えゝんだから、先刻《さつき》もおつう
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