つら》と交際《つきえゝ》した日《ひ》にや限《かぎり》はねえが、隅《すみ》の方《はう》にちゞまつてりや何《なん》ともゆはねえな」勘次《かんじ》がついて居《ゐ》る間《あひだ》におつぎは枯粗朶《かれそだ》を折《をつ》て火鉢《ひばち》へ火《ひ》を起《おこ》した。勘次《かんじ》は火箸《ひばし》を渡《わた》して鰯《いわし》を三《み》つばかり乘《の》せた。鰯《いわし》の油《あぶら》がぢり/\と垂《た》れて青《あを》い焔《ほのほ》が立《た》つた。鰯《いわし》の臭《にほひ》が薄《うす》い煙《けむり》と共《とも》に室内《しつない》に滿《み》ちた。さうして其《その》臭《にほひ》がお品《しな》の食慾《しよくよく》を促《うなが》した。お品《しな》は俯伏《うつぶ》したなりで煙臭《けぶりくさ》くなつた鰯《いわし》を喰《た》べた。
「どうした鹽辛《しよつぱ》かあ有《あ》んめえ」
「有繋《まさか》佳味《うめ》えな」
「此《これ》でもこゝらの商人《あきんど》は持《も》つちや來《き》ねえぞ」勘次《かんじ》は一心《いつしん》に見《み》ながらいつた。
 お品《しな》は二匹《にひき》へ手《て》をつけて箸《はし》を置《お》きながら
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