といふことは卯平《うへい》へはいはなかつた。假令《たとひ》どうした處《ところ》で勘次《かんじ》の許《もと》へ歸《かへ》らねばならぬことに極《きま》つて居《ゐ》るのだから、それには戸板《といた》へ乘《の》せてやる樣《やう》な病氣《びやうき》の起《おこ》るまで奉公《ほうこう》させて置《お》くよりも、丈夫《ぢやうぶ》なうちに暇《ひま》を取《と》らせて還《かへ》して畢《しま》へば、或《あるひ》は勘次《かんじ》との間《あひだ》も思《おも》つた程《ほど》のこともないだらうと、程《ほど》よいことに卯平《うへい》へ噺《はな》した。卯平《うへい》は固《もと》より親方《おやかた》から家《うち》の容子《ようす》やおつぎの成人《せいじん》したことや、隣近所《となりきんじよ》のことも逐《ちく》一|聞《き》かされた。卯平《うへい》は窪《くぼ》んだ茶色《ちやいろ》の眼《め》に暖《あたゝ》かな光《ひかり》を湛《たた》へた。
 卯平《うへい》は短《みじか》い時間《じかん》であつたが氣《き》がついてから心掛《こゝろが》けたので財布《さいふ》には幾《いく》らかの蓄《たくは》へもあつた。僅《わづか》な衣物《きもの》であるがそ
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