》は大釜《おほがま》の下《した》にぽつぽと火《ひ》を焚《た》いてあたつて居《ゐ》る。風呂《ふろ》から出《で》ても彼等《かれら》は茹《ゆだ》つたやうな赤《あか》い腿《もゝ》を出《だ》して火《ひ》の側《そば》へ寄《よ》つた。
「どうだね、一燻《ひとく》べあたつたらようがせう、今《いま》直《すぐ》に明《あ》くから」と傭人《やとひにん》がいつてくれてもお品《しな》は臀《しり》から冷《ひ》えるのを我慢《がまん》して凝然《ぢつ》と辛棒《しんぼう》して居《ゐ》た。懷《ふところ》で眠《ねむ》つた與吉《よきち》を騷《さわ》がすまいとしては足《あし》の痺《しび》れるので幾度《いくど》か身體《からだ》をもぢ/\動《うご》かした。漸《やうや》く風呂《ふろ》の明《あ》いた時《とき》はお品《しな》は待遠《まちどほ》であつたので前後《ぜんご》の考《かんがへ》もなく急《いそ》いで衣物《きもの》をとつた。與吉《よきち》は幸《さいは》ひにぐつたりと成《な》つてお袋《ふくろ》の懷《ふところ》から離《はな》れるのも知《し》らないのでおつぎが小《ちひ》さな手《て》で抱《だ》いた。お品《しな》は段々《だん/\》と身體《からだ》が
前へ 次へ
全956ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング