を》しんだにも拘《かゝは》らずお品《しな》の家《いへ》では竊《ひそか》に悦《よろこ》んだのであつた。それからといふものはどんな姿《なり》にも日《ひ》が朝《あさ》から射《さ》すやうになつた。それでも有繋《さすが》に森《もり》はあたりを威壓《ゐあつ》して夜《よる》になると殊《こと》に聳然《すつくり》として小《ちひ》さなお品《しな》の家《いへ》は地《ぢ》べたへ蹂《ふみ》つけられたやうに見《み》えた。
 お品《しな》は闇《やみ》の中《なか》へ消《き》えた。さうして隣《となり》の戸口《とぐち》に現《あら》はれた。隣《となり》の雇人《やとひにん》は夜《よ》なべの繩《なは》を綯《な》つて居《ゐ》た。板《いた》の間《ま》の端《はし》へ胡坐《あぐら》を掻《か》いて足《あし》で抑《おさ》へた繩《なは》の端《はし》へ藁《わら》を繼《つ》ぎ足《た》し/\[#「/\」に「ママ」の注記]してちより/\と額《ひたひ》の上《うへ》まで揉《も》み擧《あげ》ては右《みぎ》の手《て》を臀《しり》へ廻《まは》してくつと繩《なは》を後《うしろ》へ扱《こ》く。繩《なは》は其《その》度《たび》に土間《どま》へ落《お》ちる。お品《し
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