しを勘次《かんじ》に奪《うば》はれたやうで、ふつと不快《ふくわい》な感《かん》じを起《おこ》したのである。それもどんな姿《なり》にも勘次《かんじ》が義理《ぎり》を述《のべ》ればそれでもまだよかつたが、勘次《かんじ》は妙《めう》に身《み》がひけ[#「ひけ」に傍点]てそれが喉《のど》まで出《で》ても抑《おさ》へつけられたやうで聲《こゑ》に發《はつ》することが出來《でき》なかつたのである。
 懷《ふところ》のさむしい勘次《かんじ》はさうして身《み》がひけるのを卯平《うへい》には却《かへつ》て餘所《よそ》/\しくされるやうな感《かん》じを與《あた》へた。勘次《かんじ》は卯平《うへい》にも子供《こども》にも濟《すま》ぬやうな氣《き》がしたので近所《きんじよ》へ義理《ぎり》を足《た》すというて出《で》て菓子《くわし》の一袋《ひとふくろ》を懷《ふところ》へ入《い》れて來《き》た。其《そ》の時《とき》與吉《よきち》はもう眠《ねむ》つて居《ゐ》た。卯平《うへい》は變《へん》なことをすると思《おも》つて見《み》て居《ゐ》た。さうして又《また》更《さら》に自分《じぶん》が酷《ひど》く隔《へだ》てられるやうに
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