るので自分《じぶん》の機轉《きてん》といふものが一|向《かう》なかつたりするので酷《ひど》く齒痒《はがゆ》く思《おも》つて居《ゐ》た。然《しか》し自分《じぶん》は入夫《にふふ》といふ關係《くわんけい》もあるしそれに生來《せいらい》の寡言《むくち》なので姻戚《みより》の間《あひだ》の協議《けふぎ》にも彼《かれ》は
「どうでもわしはようがすからえゝ鹽梅《あんべい》に極《き》めておくんなせえ」とのみいふのであつた。
 勘次《かんじ》は百姓《ひやくしやう》の尤《もつと》も忙《せは》しい其《そ》の頃《ころ》の五|月《ぐわつ》に病氣《びやうき》に成《な》つた。彼《かれ》は轡《くつわ》へ附《つ》けた竹竿《たけざを》の端《はし》を執《と》つて馬《うま》を馭《ぎよ》しながら、毎日《まいにち》泥《どろ》だらけになつて田《た》の代掻《しろかき》をした。どうかするとそんな季節《きせつ》に東南風《いなさ》が吹《ふ》いて慄《ふる》へる程《ほど》冷《ひ》えることがある。勘次《かんじ》は其《そ》の冷《ひ》えが障《さは》つたのであつたらうか心持《こゝろもち》が惡《わる》いというて田《た》から戻《もど》つて來《く》るとそ
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