い》て目《め》を閉《と》ぢた。
 冬至《とうじ》はもう間《あひだ》が二日しか無《な》くなつた。朝《あさ》の内《うち》に勘次《かんじ》は蒟蒻《こんにやく》の葢《ふた》をとつて見《み》て
「どうしたもんだかな、俺《おれ》でも擔《かつ》いて歩《ある》つてんべかな、恁《かう》して置《お》いたんぢや仕《し》やうねえかんな」お品《しな》へ相談《さうだん》して見《み》た。
「さうよな、それよりか俺《お》らどつちかつちつたら大根《だいこ》でも漬《つけ》て貰《もれ》へてえな、毎日《まいんち》栗《くり》の木《き》見《み》て居《ゐ》て干過《ほしす》ぎやしめえかと思《おも》つて心配《しんぺえ》してんだからよ」お品《しな》は訴《うつた》へるやうにいつてさうして更《さら》に
「自分《じぶん》で丈夫《ぢやうぶ》でせえありや疾《とつ》くにやつちまつたんだが」と小聲《こごゑ》でいつた。お品《しな》はどうも勘次《かんじ》を出《だ》すのが厭《いや》であつた。然《しか》し何《なん》だかさう明白地《あからさま》にもいはれないので恁《か》ういつたのであつた。
「勘次《かんじ》さん鹽《しほ》見《み》てくんねえか、俺《お》ら大丈夫《だえぢよぶ》有《あ》ると思《おも》つてたつけがなよ、それからこつちの桶《をけ》の糠《ぬか》がえゝんだよ、そつちのがにや房州砂《ばうしうずな》交《まじ》つてんだから」お品《しな》はいつた。
「おうい」勘次《かんじ》はいつて、
「房州砂《ばうしうずな》でも何《なん》でも構《かま》あめえ、どうで糠《ぬか》喰《く》ふんぢやあんめえし、それにこつちなちつと凝結《こご》つてら」
「勘次《かんじ》さんそんでも入《せ》えんなよ、毒《どく》だつちんだから、俺《おれ》折角《せつかく》別《べつ》にしてたんだから」お品《しな》は少《すこ》し身《み》を起《おこ》し掛《か》けていつた。
「さうかそんぢやさうすべよ」それから鹽《しほ》を改《あらた》めて見《み》て
「どうして此《こ》れだけ使《つか》へ切《き》れるもんけえ」と勘次《かんじ》はいつた。お品《しな》は勘次《かんじ》が梯子《はしご》を掛《か》けて一《ひと》つ/\に大根《だいこ》を外《はず》すのも小糠《こぬか》を筵《むしろ》へ量《はか》るのも白《しろ》い鹽《しほ》を小糠《こぬか》へ交《ま》ぜるのも滿足氣《まんぞくげ》に見《み》て居《ゐ》た。
 お品《しな》は勘次《かんじ》を外《ほか》へ遣《や》るのが厭《いや》なのでさうはいはずに時々《とき/″\》おつぎに足《あし》をさすらせた。さうすると勘次《かんじ》は
「どうした幾《いく》らか惡《わる》いのか」と自分《じぶん》も一|心《しん》に蒲團《ふとん》の裾《すそ》へ手《て》を掛《か》ける。勘次《かんじ》は庭《には》から外《そと》へは出《で》られなかつた。
 それでも冬至《とうじ》が明日《あす》と迫《せま》つた日《ひ》に勘次《かんじ》は蒟蒻《こんにやく》を持《も》つて出《で》た。お品《しな》もそれは止《と》めなかつた。もう幾人《いくにん》か歩《ある》いた後《あと》なので、思《おも》ふやうには捌《は》けなかつたがそれでも勘次《かんじ》はお品《しな》にひかされて、まだ殘《のこ》つて居《ゐ》る蒟蒻《こんにやく》を擔《かつ》いで歸《かへ》つて來《き》て畢《しま》つた。
「蒟蒻《こんにやく》はお品《しな》がもんだから、錢《ぜに》はみんなおめえげ遣《や》つて置《お》くべ」勘次《かんじ》は銅貨《どうくわ》をぢやら/\とお品《しな》の枕元《まくらもと》へ明《あ》けた。お品《しな》は銅貨《どうくわ》を一つ/\勘定《かんぢやう》した。さうして資本《もとで》を引《ひ》いても幾《いく》らかの剩餘《あまり》があつたので
「勘次《かんじ》さん思《おも》ひの外《ほか》だつけな、まあだあと餘程《よつぽど》あんべえか」といつた。
「幾《いく》らでもねえな、はあ此丈《これだけ》ぢや又《また》出《で》る程《ほど》のこつてもあんめえよ」勘次《かんじ》はいつた。お品《しな》は自分《じぶん》の手《て》で錢《ぜに》を蒲團《ふとん》の下《した》へ入《い》れた。其《そ》の日《ひ》お品《しな》は勘次《かんじ》を出《だ》して情《なさけ》ないやうな心持《こゝろもち》がして居《ゐ》たのであるが、思《おも》つたよりは商《あきなひ》をして來《き》て呉《く》れたので一|日《にち》の不足《ふそく》が全《まつた》く恢復《くわいふく》された。さうして
「菜《な》は畑《はたけ》へ置《お》きつ放《ぱな》しだつけべな」勘次《かんじ》がいつた時《とき》お品《しな》も驚《おどろ》いたやうに
「ほんにさうだつけなまあ、後《おく》れつちやつたつけなあ、俺《お》ら忘《わす》れてたつけが大丈夫《だえぢよぶ》だんべかなあ」といつた。
「そんぢや俺《お》ら今《いま》つから
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