苦竹《まだけ》に交《まじ》つたのを後《うしろ》の林《はやし》から伐《き》つたのである。次《つぎ》の日《ひ》土《つち》は能《よ》く水《みづ》を引《ひ》いて居《ゐ》て程《ほど》よく溲《こ》ねられた。勘次《かんじ》はおつぎに其《そ》の泥《どろ》を盥《たらひ》へ運《はこ》ばせて置《お》いて不器用《ぶきよう》な手《て》もとで塗《ぬ》つた。卯平《うへい》は猶《なほ》も篠《しの》で編《あ》み残《のこ》した箇所《かしよ》を拵《こしら》へて居《ゐ》た。
塗《ぬ》りたての壁《かべ》は狹苦《せまくる》しい小屋《こや》の内側《うちがは》を濕《しめ》つぽく且《かつ》闇《くら》くした。壁《かべ》の土《つち》の段々《だん/\》に乾《かわ》くのが待遠《まちどほ》で卯平《うへい》は毎日《まいにち》床《ゆか》の上《うへ》の筵《むしろ》に坐《すわ》つて火《ひ》を焚《たい》た。彼《かれ》は近頃《ちかごろ》に成《な》つてから毎日《まいにち》の樣《やう》に林《はやし》を歩《ある》いては麁朶《そだ》を脊負《せお》つて來《き》て折《を》つては焚《た》き折《を》つては焚《た》きして居《ゐ》た。壁《かべ》を塗《ぬ》る時《とき》格子目《かうしめ》から内側《うちがは》へ捲《ま》くれ出《で》た泥《どろ》の一つ/\がだん/\に白《しろ》つぽく乾《かわ》いて明《あか》るく成《な》つた時《とき》勘次《かんじ》は又《また》内側《うちがは》から塗《ぬ》つて捲《まく》れて出《で》た一つ/\を一|帶《たい》に隱《かく》した。卯平《うへい》は掘立小屋《ほつたてごや》を建《た》てるとなつたら勘次《かんじ》が此《こ》れ迄《まで》になく油《あぶら》が乘《の》つた樣《やう》に威勢《ゐせい》よく仕事《しごと》をしてくれるのを何《なん》となく嬉《うれ》しく思《おも》つて見《み》たが、夫《それ》でも仕事《しごと》をしながらしみ/″\口《くち》を利《き》くのでもなければ、毎日《まいにち》膳《ぜん》を竝《なら》べると屹度《きつと》僻《ひが》んだやうな顏《かほ》をされるので、卯平《うへい》は一|日《にち》も速《はや》く別《べつ》に成《な》つて見《み》たい心《こゝろ》から更《さら》に塗《ぬ》つた壁《かべ》の爲《ため》に再《ふたゝ》び闇《くら》くなつた小屋《こや》の明《あか》るく成《な》るのが遲緩《もどか》しさに堪《た》へぬのであつた。卯平《うへい》は狹《せま》いながらにどうにか土間《どま》も拵《こしら》へて其處《そこ》へは自在鍵《じざいかぎ》を一《ひと》つ吊《つる》して蔓《つる》のある鐵瓶《てつびん》を懸《かけ》たり小鍋《こなべ》を掛《か》けたりすることが出來《でき》る樣《やう》にした。彼《かれ》は勘次《かんじ》から幾《いく》らかづゝの米《こめ》や麥《むぎ》を分《わ》けさせて別居《べつきよ》した當座《たうざ》は自分《じぶん》の手《て》で煮焚《にたき》をした。それが却《かへつ》て氣藥《きらく》でさうして少《すこ》しづゝは彼《かれ》の舌《した》に佳味《うま》く感《かん》ずる程度《ていど》の物《もの》を求《もと》めて來《く》ることが出來《でき》た。
然《しか》しさうして居《ゐ》ても寒《さむ》さが非常《ひじやう》に嚴《きび》しい時《とき》は彼《かれ》は只《たゞ》狹苦《せまくる》しい小屋《こや》の中《なか》に麁朶《そだ》を少《すこ》しづつ折《を》り燻《く》べるよりも比較的《ひかくてき》廣《ひろ》い竈《かまど》の前《まへ》で横《よこ》に轉《ころ》がした大籠《おほかご》からがさ/\と木《こ》の葉《は》を掻《か》き出《だ》してぼう/\と焔《ほのほ》を立《た》てゝ暖《あたゝ》まりたい心持《こゝろもち》がするのであつた。それで彼《かれ》は勘次《かんじ》の留守《るす》には竈《かまど》の前《まへ》で悠長《いうちやう》に木《こ》の葉《は》を焚《た》いて顏《かほ》や手足《てあし》の皮《かは》の燒《や》けた樣《やう》に赤《あか》くなるまであたつた。勘次《かんじ》は時々《とき/″\》持《も》ち込《こ》んだ麁朶《そだ》や木《こ》の葉《は》が理由《わけ》もなく減《へ》つて居《ゐ》ることを知《し》つて不快《ふくわい》な感《かん》を懷《いど》いてはこつそりと呟《つぶや》きつゝおつぎに當《あた》るのであつた。
卯平《うへい》は暫《しばら》く隱居《いんきよ》に落付《おちつ》いてからは一|錢《せん》づゝでも懷《ふところ》を拵《こし》らへねばならぬといふ決心《けつしん》から促《うなが》されて、毎日《まいにち》煙管《きせる》を横《よこ》に銜《くは》へては悠長《いうちやう》ではあるが、然《しか》も間斷《かんだん》なく繩《なは》をちより/\と綯《な》つたり、それから草鞋《わらぢ》を作《つく》つたりした。彼《かれ》は原料《げんれう》の藁《わら》を勘次《かんじ》に要求《え
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