だが、それもどういふ筋《すぢ》の錢《ぜに》だか分《わか》らないがそりや使《つか》つちやいかないんだらうさね」
「そんぢやお内儀《かみ》さん他人《ひと》の錢《ぜに》なくしたのなんぞ發見《めつ》けても知《し》らねえ容子《ふり》なんぞして、後《あと》で遣《や》んな盜《と》つた見《み》てえで變《をかし》な時《とき》や、何《なん》でかで落《おつ》ことした丈《だけ》の物《もの》でもやればそれでも違《ちげ》えあんすべね」勘次《かんじ》は少《すこ》し自分《じぶん》のいふことの内容《ないよう》を打《う》ち明《あ》けるやうにいつた。
「默《だま》つて居《ゐ》ればそれつ切《きり》なんだが」彼《かれ》は獨《ひとり》喉《のど》の底《そこ》でいつた。
「そりやそんなことしないで發見《みつ》けた物《もの》なら其儘《そつくり》返《かへ》すのが本當《ほんたう》だよ」内儀《かみ》さんは聲《こゑ》は低《ひく》かつたがきつぱりいつた。勘次《かんじ》の惑《まど》うた心《こゝろ》の底《そこ》にはそれがびりゝと強《つよ》く響《ひゞ》いた。
「そんぢやお内儀《かみ》さんそれ返《けえ》して又《また》其《そ》の外《ほか》にも何《なん》とかしたら冥利《みやうり》の惡《わ》りいやうなことも有《あ》りあんすめえな」彼《かれ》は情《なさけ》なげな目《め》で内儀《かみ》さんをちらりと見《み》ていつた。
「そんなこた仕《し》なくつたつて何《なに》もよかりさうなもんだね」内儀《かみ》さんは勘次《かんじ》の餘《あま》りに懸念《けねん》らしい容子《ようす》に疾《とう》から心《こゝろ》づいたことがあつた。内儀《かみ》さんは暫《しばら》く聞《き》かなかつた彼《かれ》の盜癖《たうへき》に思《おも》ひ至《いた》つた。然《しか》し彼《かれ》が自分《じぶん》から甚《はなは》だしく悔《く》いつゝあるらしいのを心《こゝろ》に確《たしか》めて強《し》ひては追求《つゐきう》しようといふ念慮《ねんりよ》も起《おこ》し得《え》なかつた。勘次《かんじ》は只《たゞ》不便《ふびん》に見《み》えた。内儀《かみ》さんはふと思《おも》ひ出《だ》して少《すこ》しばかりの銀貨《ぎんくわ》を勘次《かんじ》の側《そば》へ竝《なら》べて
「そりやさうと、お前《まへ》も家族《うち》の極《きま》りをつける積《つもり》だつていふんだが、まあどうする積《つもり》なんだね」と靜《しづか》に
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