》い火《ひ》にあたりながらふと氣《き》が變《かは》つてついと庭《には》へ出《で》た。彼《かれ》は何《なに》かゞ足《あし》に纏《まつは》つたのを知《し》つた。手《て》に取《と》つて見《み》たらそれは荒繩《あらなは》であつた。彼《かれ》はそれからどうしたのか明瞭《めいれう》に描《ゑが》いて見《み》ようとするには頭腦《づなう》が餘《あま》りにぼんやりと疲《つか》れて居《ゐ》た。
 彼《かれ》は勘次《かんじ》の庭《には》に立《た》つた。彼《かれ》は荒繩《あらなは》が手《て》に在《あ》つたことを心《こゝろ》づいた時《とき》、※[#「柿」の正字、第3水準1−85−57]《かき》の木《き》の低《ひく》い枝《えだ》にそれを引掛《ひつか》けようとして投《な》げた。彼《かれ》の不自由《ふじいう》な手《て》は暗夜《あんや》に其《そ》の目的《もくてき》を遂《と》げさせなかつた。彼《かれ》は幾度《いくたび》投《な》げても徒勞《むだ》であつた。身《み》を切《き》るやうな北風《きたかぜ》が田圃《たんぼ》を渡《わた》つて、それを隔《へだ》てようとする後《うしろ》の林《はやし》をごうつと壓《おさ》へては吹《ふ》き落《お》ちて、彼《かれ》の手《て》の運動《うんどう》を全《まつた》く鈍《にぶ》くして畢《しま》つた。軈《やが》て後《うしろ》の林《はやし》の梢《こずゑ》から斜《なゝめ》に雪《ゆき》が吹《ふ》きおろして來《き》た。卯平《うへい》は少時《しばらく》躊躇《ちうちよ》して※[#「柿」の正字、第3水準1−85−57]《かき》の木《き》の根《ね》に其《そ》の疲《つか》れた身《み》を倚《よ》せた。暫《しばら》くして彼《かれ》は雪《ゆき》が冷《つめ》たく自分《じぶん》の懷《ふところ》に溶《とけ》て不愉快《ふゆくわい》に流《なが》れるのを知《し》つた。彼《かれ》はそれから身體《からだ》が固《かた》まるやうに思《おも》ひながら、疎《あら》い白髮《しらが》の梳《くしけづ》られるのをも、微《かすか》に感覺《かんかく》を有《いう》した。※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にはとり》の聲《こゑ》が耳《みゝ》に遠《とほ》く聞《きこ》えて消滅《せうめつ》するのを知《し》つた。彼《かれ》は遂《つひ》にうと/\と成《な》つて畢《しま》つた。更《さら》に數《すう》十|分間《ぷんかん》其《そ》の儘《まゝ》に忘《わす》られて
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