の油《あぶら》を塗《ぬ》つてやつた。
勘次《かんじ》は燒木杙《やけぼつくひ》を地《ち》に建《た》てゝ彼《かれ》に第《だい》一の要件《えうけん》たる假《かり》の住居《すまゐ》を造《つく》つた。近所《きんじよ》から聚《あつ》めた粟幹《あはがら》の僅少《きんせう》な材料《ざいれう》が葺草《ふきぐさ》であつた。それは漸《やつ》と雨《あめ》の洩《も》るか洩《も》らないだけの薄《うす》い葺方《ふきかた》であつた。固《もと》より壁《かべ》を塗《ぬ》る暇《ひま》はない。そこらこゝらの林《はやし》の間《あひだ》に刈《か》り残《のこ》された萱《かや》や篠《しの》を刈《か》つて來《き》て、乏《とぼ》しい藁《わら》と交《ま》ぜて垣根《かきね》でも結《ゆ》ふやうにそれを内外《うちそと》から裂《さ》いた竹《たけ》を當《あ》てゝぎつと締《し》めた。彼《かれ》は南《みなみ》の家《いへ》から借《か》りた鋸《のこぎり》で大小《だいせう》の燒木杙《やけぼつくひ》を挽切《ひつき》つた。遂《しまひ》に彼《かれ》は後《うしろ》から燒《や》けた竹《たけ》を伐《き》つて來《き》て簀《す》の子《こ》のやうに横《よこた》へて低《ひく》い床《ゆか》を造《つく》つた。竹《たけ》を伐《き》つた鉈《なた》も彼《かれ》の所有《もの》ではなかつた。彼《かれ》の熱火《ねつくわ》に燒《や》かれて獨《ひとり》で冷《さ》めた鉈《なた》も鎌《かま》も凡《すべ》ての刄物《はもの》はもう役《やく》には立《た》たなかつた。彼《かれ》の手《て》に完全《くわんぜん》に保《たも》たれたものは彼《かれ》が自分《じぶん》の手《て》を恃《たの》んで居《ゐ》る唐鍬《たうぐは》のみである。彼《かれ》は此《こ》の壁《かべ》もない小屋《こや》を造《つく》る爲《ため》に二|日《か》ばかりの間《あひだ》は毫《すこし》も他《た》を顧《かへり》みる暇《いとま》がなかつた程《ほど》心《こゝろ》が忙《いそが》しかつた。彼《かれ》の悲慘《みじめ》な狹《せま》い小屋《こや》には藥鑵《やくわん》と茶碗《ちやわん》とそれから火事《くわじ》の夕方《ゆふがた》に隣《となり》の主人《しゆじん》がよこした新《あたら》しい手桶《てをけ》とのみで、夜《よる》の身《み》を横《よこた》へるのに一|枚《まい》の蒲團《ふとん》もなかつた。砥石《といし》を掛《か》けて磨《みが》かねば使用《しよう》に堪《
前へ
次へ
全478ページ中444ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング