つた。おつぎは俄《にはか》に自分《じぶん》の萬能《まんのう》を執《と》つて勘次《かんじ》の手《て》に攫《つか》ませた。勘次《かんじ》は始《はじ》めて心《こゝろ》づいて、熱《ねつ》した唐鍬《たうぐは》を冷《ひや》さうとして井戸端《ゐどばた》へ走《はし》つた。鍵《かぎ》の手《て》を離《はな》れた釣瓶《つるべ》は高《たか》く空中《くうちう》に浮《うか》んでゆつくりと大《おほ》きく動《うご》いて居《ゐ》た。彼《かれ》は流《なが》し尻《じり》にずぶりと唐鍬《たうぐは》を投《とう》じて又《また》萬能《まんのう》を執《と》つた。
 一|日《にち》吹《ふ》いた疾風《しつぷう》が礑《はた》と其《そ》の力《ちから》を落《おと》したら、日《ひ》が西《にし》の空《そら》の土手《どて》のやうな雲《くも》の端《はし》に近《ちか》く据《すわ》つて漸次《だん/\》に沒却《ぼつきやく》しつゝ瞬《またゝ》いた。其《そ》の一|瞬時《しゆんじ》強烈《きやうれつ》な光《ひかり》が横《よこ》に東《ひがし》の森《もり》の喬木《けうぼく》を錆《さび》た橙色《だい/″\いろ》に染《そ》めて、更《さら》に其《そ》の光《ひかり》は隙間《すきま》を遠《とほ》くずつと手《て》を伸《のば》した。冷《つめ》たく且《かつ》薄闇《うすぐら》く成《な》るに從《したが》つて燒趾《やけあと》の火《ひ》が周圍《しうゐ》を明《あか》るくした。隣《となり》の火《ひ》はほんのりと空《そら》をぼかした。隣《となり》の庭《には》には自分《じぶん》の村落《むら》から他《た》の村落《むら》から手桶《てをけ》や飯臺《はんだい》へ入《い》れた握《にぎ》り飯《めし》が數多《かずおほ》く運《はこ》ばれた。消防《せうばう》に力《ちから》を竭《つく》した群集《ぐんしふ》は白《しろ》い握飯《にぎりめし》を貪《むさぼ》つた。群集《ぐんしふ》は更《さら》に時分《じぶん》を見計《みはか》らつてはぐら/\と柱《はしら》を突《つ》き倒《たふ》さうとした。丈夫《ちやうぶ》な柱《はしら》はまだ火勢《くわせい》があたりを遠《とほ》ざけて確乎《しつか》と立《た》つて居《ゐ》た。他《た》の村落《むら》の人々《ひと/″\》は漸次《だんだん》に歸《かへ》り去《さ》つた。自村《むら》の人々《ひと/″\》は交代《かうたい》に残《のこ》つて熾《さかん》な火《ひ》の番《ばん》をした。歸《かへ》り行
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