なかつた。彼《かれ》は只《たゞ》涙《なみだ》がこみあげて止《と》め處《ど》もなく悲《かな》しくさうしてしみ/″\と泣《な》き續《つゞ》けた。勘次《かんじ》はそれを聞《き》いた瞬間《しゆんかん》肩《かた》の唐鍬《たうぐは》を轉《ころ》がしてぶつりと土《つち》を打《う》つた。唐鍬《たうぐは》の刄先《はさき》は卯平《うへい》の頭《あたま》に近《ちか》く筵《むしろ》の一|端《たん》を掠《かす》つて深《ふか》く土《つち》に立《た》つた。彼《かれ》はそれから燒盡《やきつく》して一|杯《ぱい》の※[#「火+畏」、第3水準1−87−57]《おき》になつた自分《じぶん》の家《うち》に近《ちか》く駈《か》け寄《よ》つた。彼《かれ》は火《ひ》の恐《おそ》ろしい熱度《ねつど》を感《かん》じて少時《しばし》躊躇《ちうちよ》して立《た》つた。後《うしろ》の林《はやし》の稍《やゝ》俛首《うなだ》れた竹《たけ》の外側《そとがは》がぐるりと燒《や》かれて變色《へんしよく》して居《ゐ》たのが彼《かれ》の目《め》に映《えい》じた。それと共《とも》に彼《かれ》は隣《となり》の森《もり》の中《なか》の群集《ぐんしふ》の囂々《がう/\》と騷《さわ》ぐのを耳《みゝ》にして自分《じぶん》が今《いま》何《なん》の爲《ため》に疾走《しつそう》して來《き》たかを心《こゝろ》づいた。然《しか》し彼《かれ》はもう其《そ》の群集《ぐんしふ》の間《あひだ》に交《まじ》つて主人《しゆじん》の災厄《さいやく》に赴《おもむ》く心《こゝろ》は起《おこ》らなかつた。彼《かれ》は其《そ》の群集《ぐんしふ》の聲《こゑ》を聞《き》いて、自《みづか》ら意識《いしき》しない壓迫《あつぱく》を感《かん》じた。彼《かれ》は酷《ひど》く自分《じぶん》の哀《あはれ》つぽい悲慘《みじめ》な姿《すがた》を泣《な》きたくなつた。彼《かれ》は疾走《しつそう》した後《あと》の異常《いじやう》な疲勞《ひらう》を感《かん》じた。彼《かれ》は自分《じぶん》の燒趾《やけあと》を掻《か》き立《た》てようとするのに鳶口《とびぐち》も萬能《まんのう》も皆《みな》其《その》火《ひ》の中《なか》に包《つゝ》まれて畢《しま》つて居《ゐ》た。彼《かれ》は空手《からて》であつた。唐鍬《たうぐは》を執《と》つて彼《かれ》は再《ふたゝ》び熱《あつ》い火《ひ》の側《そば》に立《た》つた。熱《あ
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