じん》の家《いへ》に起《おこ》つたことを聞《き》かされて彼《かれ》はおつぎを促《うなが》して立《た》つた。彼《かれ》は疾驅《しつく》しようとして、其《そ》の確乎《しつか》と身《み》を据《す》ゑた位置《ゐち》から一|歩《ぽ》を踏《ふ》み出《だ》した時《とき》、じやりつと其《その》爪先《つまさき》を打《う》つて財布《さいふ》が落《お》ちた。彼《かれ》が顧《かへり》みた時《とき》財布《さいふ》は二三|歩《ぽ》後《うしろ》に發見《はつけん》された。彼《かれ》は簡單《かんたん》な三|尺帶《じやくおび》を解《と》いて、ぎりつと其處《そこ》に大《おほ》きな塊《かたまり》のやうな結《むす》び目《め》を作《つく》つて其《そ》の財布《さいふ》を包《つゝ》んだ。
彼《かれ》は殆《ほとん》ど其《そ》の脚力《きやくりよく》の及《およ》ぶ限《かぎ》り走《はし》つた。彼《かれ》はおつぎが後《うしろ》に續《つゞ》かぬことを顧慮《こりよ》する暇《いとま》もなかつた。彼《かれ》は其《そ》の主人《しゆじん》を懷《おも》つたのである。勘次《かんじ》は後《うしろ》の田圃《たんぼ》へ出《で》た時《とき》霧《きり》の如《ごと》き埃《ほこり》を隔《へだ》てゝ主人《しゆじん》の家《いへ》の森《もり》から騰《のぼ》る熾《さかん》な煙《けぶり》を見《み》て今更《いまさら》の如《ごと》く恐怖《きようふ》した。彼《かれ》は又《また》ふと自分《じぶん》の後《うしろ》の林《はやし》に少《すこ》し見《み》えて居《ゐ》た自分《じぶん》の家《いへ》の棟《むね》が見《み》えないのに其《その》心《こゝろ》を騷《さわ》がせた。毫《がう》も其《そ》の力《ちから》を落《おと》さぬ疾風《しつぷう》は雜木《ざふき》に交《まじ》つた竹《たけ》の梢《こずゑ》を低《ひく》くさうして更《さら》に低《ひく》く吹靡《ふきなび》けて居《を》れど棟《むね》はどうしても見《み》えなかつた。彼《かれ》は又《また》煙《けぶり》が絲《いと》の如《ごと》く然《しか》も凄《すさま》じく自分《じぶん》の林《はやし》の邊《あたり》から立《たつ》ては壓《お》しつけられるのを見《み》た。彼《かれ》が自分《じぶん》の庭《には》に立《た》つた時《とき》は、古《ふる》い煤《すゝ》だらけの疎末《そまつ》な建築《けんちく》は燒盡《やきつく》して主要《しゆえう》の木材《もくざい》が僅《わづか
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