で只《たゞ》靜《しづ》かであつた。田圃《たんぼ》を透《とほ》して林《はやし》の間《あひだ》から見《み》える其《その》遠《とほ》い山々《やま/\》の雲《くも》は稍《やゝ》薄《うす》くなつて空《そら》を濁《にご》して居《ゐ》た。軈《やが》て雜木林《ざふきばやし》の枝頭《えださき》が少《すこ》し動《うご》いたと思《おも》つたらごうつといふ響《ひゞき》が勘次《かんじ》の耳《みゝ》に鳴《な》つた。巨人《きよじん》の脚《あし》が逼《せま》つたのである。彼《かれ》はむつと思《おも》はず呼吸《こきふ》が切迫《せつぱく》した。
 毎日《まいにち》吹《ふ》き渡《わた》る西風《にしかぜ》は乾燥《かんさう》しつゝある凡《すべ》ての物《もの》を更《さら》に乾燥《かんさう》させねば止《や》まない。雨《あめ》が稀《まれ》にしんみりと降《ふ》つても西風《にしかぜ》は朝《あさ》から一|日《にち》青《あを》い常緑木《ときはぎ》の葉《は》をも泥《どろ》の中《なか》へ拗切《ちぎ》つて撒布《まきち》らす程《ほど》吹《ふ》き募《つの》れば、それだけで土《つち》はもう殆《ほと》んど乾《かわ》かされるのである。土《つち》が保有《ほいう》すべき水分《すゐぶん》がそれ程《ほど》蒸發《じようはつ》し盡《つく》しても其《そ》の吹《ふ》き渡《わた》る間《あひだ》は西風《にしかぜ》は決《けつ》して空《そら》に一|滴《てき》の雨《あめ》さへ催《もよほ》させぬ。それでも有繋《さすが》に深《ふか》く水《みづ》を藏《ざう》して居《ゐ》る土《つち》は垢《あか》の如《ごと》き表皮《へうひ》のみを掻《か》き拂《はら》つて行《ゆ》く疾風《しつぷう》の爲《ため》には容易《ようい》に其《そ》の力《ちから》を失《うしな》はないで、夜《よ》が更《ふ》ければ幾《いく》らでも空氣中《くうきちう》に保《たも》たれた水分《すゐぶん》を微細《びさい》に結晶《けつしやう》させて一|杯《ぱい》に白《しろ》く引《ひ》きつける。土《つち》が徹宵《よつぴて》さういふ作用《さよう》を營《いとな》んだばかりに、日《ひ》は拂曉《あけがた》の空《そら》から横《よこ》にさうして斜《なゝめ》に其《そ》の霜《しも》を解《と》かして、西風《にしかぜ》は直《たゞち》にそれを乾《かわ》かして残酷《ざんこく》に表土《へうど》の埃《ほこり》を空中《くうちう》に吹《ふ》き捲《ま》くる。其《そ》
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