》ぶことが億劫《おつくふ》で、大事《だいじ》な生命《いのち》といふことを考《かんが》へることさへ心《こゝろ》に暇《いとま》を持《も》たなかつた。僥倖《げうかう》にも卵膜《らんまく》を膨脹《ばうちやう》させた液體《みづ》が自分《じぶん》から逃《に》げ去《さ》る途《みち》を求《もと》めて其《そ》の包圍《はうゐ》を破《やぶ》つた。數升《すうしよう》の液體《みづ》が迸《ほとばし》つて、驚《おどろ》いて横《よこた》へた身《み》を蒲團《ふとん》の上《うへ》に浮《う》かさうとした。それと共《とも》に安住《あんぢう》の場所《ばしよ》を失《うしな》うた胎兒《たいじ》は自然《しぜん》に母體《ぼたい》を離《はな》れて出《で》ねばならなかつた。胎兒《たいじ》は勿論《もちろん》死《し》んでさうして手《て》を出《だ》した。其《そ》の時《とき》女房《にようばう》は非常《ひじやう》に疲憊《ひはい》して居《ゐ》たが、我慢《がまん》をするからといつたばかりに卯平《うへい》はぐつと力《ちから》を入《い》れて引《ひ》き出《だ》した。彼《かれ》の惡意《あくい》を有《も》たぬ手《て》が斯《かく》の如《ごと》く残酷《ざんこく》に働《はたら》かされたのは、夫婦《ふうふ》の間《あひだ》には僅《わづか》でも他人《たにん》の手《て》を藉《か》ることに金錢上《きんせんじやう》の恐怖《おそれ》を懷《いだ》かしめられたからであつた。女房《にようばう》はそれでも死《し》なゝかつた。然《しか》し殆《ほと》んど想像《さうざう》されなかつた疼痛《とうつう》が滿身《まんしん》に沁《し》み渡《わた》つた。軈《やが》て非常《ひじやう》な發熱《はつねつ》が伴《ともな》つた。それからといふものは三|年《ねん》も臥《ふせ》つた儘《まゝ》で季節《きせつ》が暖《あたゝ》かに成《な》れば稀《まれ》には蒲團《ふとん》からずり出《だ》して僅《わづか》に杖《つゑ》に縋《すが》つては軟《やはら》かな春《はる》の日《ひ》をさへ刺戟《しげき》に堪《た》へぬやうに眩《まぶ》しがつて居《ゐ》た。
 お品《しな》の母《はゝ》との關係《くわんけい》が餘計《よけい》な告口《つげぐち》から女房《にようばう》の耳《みゝ》に入《はひ》つた。其《そ》の頃《ころ》暑《あつ》さに向《む》いて居《ゐ》た所爲《せゐ》でもあつたが女房《にようばう》はそれを苦《く》にし始《はじ》めてからがつ
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