た。
「篦棒《べらぼう》、以前《めえかた》のことなんぞ、外聞《げえぶん》惡《わ》りい、俺《お》らなんざこんで隨分《ずゐぶん》無鐵砲《がしよき》なこたあしたが、こんで女《をんな》にや煎《え》れねえつちやつたから」と首《くび》に珠數《じゆず》を卷《ま》いた爺《ぢい》さんが側《そば》でそれを見《み》て居《ゐ》て呶鳴《どな》つた。
「おめえ、怒《おこ》んなくつてもえゝやな、酒《さけ》の座敷《ざしき》ぢや其《それ》つ位《くれえ》なこた仕方《しかた》あんめえな」と叱《しか》られた婆《ばあ》さんは右《みぎ》の手《て》を上《うへ》から左《ひだり》の手《て》の平《ひら》へ打《う》ちつけて、大聲《おほごゑ》を立《た》てゝ笑《わら》ひながら
「どうしたんでえまあ一|杯《ぺえ》やらつせえね」と婆《ばあ》さんは更《さら》に卯平《うへい》へ茶碗《ちやわん》を突《つ》きつけた。卯平《うへい》は一|杯《ぱい》をも口《くち》へ銜《ふく》まぬのに先刻《さつき》から只《たゞ》凝然《ぢつ》として、騷《さわ》ぎを聞《き》くでもなく聞《き》かぬでもない容子《ようす》をして胡坐《あぐら》をかいて居《ゐ》た。二|度目《どめ》の酒《さけ》は幾《いく》らか腹《はら》に餘計《よけい》であつた老人等《としよりら》はもう卯平《うへい》を見遁《みのが》しては置《お》かなかつたのである。
「俺《お》ら暫《しばら》くやんねえから」卯平《うへい》はそつけなくいつて其《そ》の癖《くせ》の舌《した》を鳴《な》らした。
「何《なん》でまた飮《の》まねえんだ、さうだにしんねりむつゝりしてねえで、ちつた威勢《えせい》つけて見《み》るもんだ、そうれ」と先刻《さつき》からの爺《ぢい》さんは茶碗《ちやわん》を突《つ》きつけた。卯平《うへい》は復《ま》た舌《した》を鳴《な》らして、唾《つば》をぐつと嚥《の》んだ。
「俺《お》らはあ、暫《しばら》くやんねえから、煙草《たばこ》は身體《からだ》の工合《ぐえゝ》惡《わ》りいから斷《た》つたんだから何《なん》だが、酒《さけ》は此《こ》れ錢《ぜね》は稼《かせ》げねえし、ちつとでも飮《の》めば又《また》飮《の》みたくなつから廢《や》めつちやつたな、酒《さけ》もはあ以前《めえかた》た違《ちが》つて一|杯《ぺえ》幾《いく》らつちんだから錢《ぜね》くんのむやうで」彼《かれ》はぶすりとして然《しか》も力《ちから》のない
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