つく時《とき》ほかりと感《かん》じた。さうして箸《はし》を措《を》いた後《のち》漸《やうや》く身體《からだ》に快《こゝろ》よい暖氣《だんき》の加《くは》はつたことを知《し》つた。少量《せうりやう》の水《みづ》を注《つい》だ鐵瓶《てつびん》の沸《わ》くのを彼《かれ》は復《また》凝然《ぢつ》として待《ま》つた。彼《かれ》は先刻《さつき》からどうかすると手《て》もとを探《さぐ》るやうにして煙草入《たばこいれ》を膝《ひざ》にした。煙草入《たばこいれ》は虚空《から》であつた。彼《かれ》は自分《じぶん》の體力《たいりよく》が滅切《めつきり》と減《へつ》て仕事《しごと》をするのに手《て》が利《き》かなくなつて、小遣錢《こづかひせん》の不足《ふそく》を感《かん》じた時《とき》、自棄《やけ》に成《な》つた心《こゝろ》から斷然《だんぜん》其《その》噛《か》む程《ほど》好《すき》な煙草《たばこ》を廢《よ》さうとした。彼《かれ》は悲慘《みじめ》な自分《じぶん》を自分《じぶん》が苛《いぢ》めてやるやうな心持《こゝろもち》を一|方《ぱう》には有《も》つた。一|方《ぱう》には又《また》無智《むち》な彼等《かれら》の伴侶《なかま》が能《よ》くするやうに彼《かれ》は持病《ぢびやう》の平癒《へいゆ》を佛《ほとけ》に祈《いの》つたのでもあつた。それが明日《あす》からといふ日《ひ》に彼《かれ》は其《その》残《のこ》つた煙草《たばこ》を殆《ほとん》ど一|日《にち》喫《す》ひ續《つゞ》けた。煙草入《たばこいれ》の叺《かます》を倒《さかさ》にして爪先《つまさき》でぱた/\と彈《はじ》いて少《すこ》しの粉《こ》でさへ餘《あま》さなかつた。其《その》後《のち》手《て》についた癖《くせ》が何《なに》かにつけては煙管《きせる》を掴《つか》ませるので、止《や》めたことを彼《かれ》は心《こゝろ》に悔《く》いることもあつた。然《しか》し彼《かれ》は又《また》直《すぐ》に佛《ほとけ》に對《たい》しての誓約《せいやく》を破《やぶ》ることに非常《ひじやう》な恐怖《きようふ》を懷《いだ》いた。彼《かれ》はどうしても斷念《だんねん》せねばならぬ心《こゝろ》の苦《くる》しみを紛《まぎ》らす爲《ため》に蕗《ふき》の葉《は》や桑《くは》の葉《は》を干《ほ》して煙管《きせる》の火皿《ひざら》につめて見《み》たが、どれでも煙草《たばこ》のやうに
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