十露盤《そろばん》を出《だ》して商人《あきんど》は
「皆掛《みながけ》が四百廿三|匁《もんめ》二|分《ぶ》だからなそれ」秤《はかり》の目《め》をお品《しな》に見《み》せて十露盤《そろばん》の玉《たま》を彈《はじ》いた。
「風袋《ふうたい》を引《ひ》くと四百八|匁《もんめ》二|分《ぶ》か、どうした幾《いく》つだ廿六かな、さうすると一《ひと》つが」商人《あきんど》のいひ畢《をは》らぬうちにお品《しな》は
「幾《いく》らなんでえ、此《こ》の風袋《ふうたい》は」と聞《き》いた。
「十五|匁《もんめ》だな」
「大概《てえげえ》十|匁《もんめ》ぢやねえけえ」
「そんだら見《み》さつせえそれ、十五|匁《もんめ》だんべ、俺《おら》がな他人《たにん》のがよりや大《え》けえんだかんな」商人《あきんど》は目笊《めざる》の目《め》を掛《か》けて見《み》せて
「はて、一つ十五|匁《もんめ》七|分《ぶ》づゝだ、粒《つぶ》は小《ちひ》せえ方《はう》だな」商人《あきんど》はゆつくり十露盤《そろばん》の玉《たま》を彈《はじ》いて
「四十六|錢《せん》八|厘《りん》六|毛《まう》三|朱《しゆ》と成《な》るんだが、此《こ》りや八|厘《りん》として貰《もら》つてな」と商人《あきんど》は財布《さいふ》から自分《じぶん》の手《て》へ錢《ぜに》を明《あ》けた。
「お品《しな》おめえ自分《じぶん》でも喰《く》つたらよかねえけ、幾《いく》つでも取《と》つて置《お》けな」勘次《かんじ》は鹽《しほ》だらけにした手《て》を止《と》めて遠《とほ》くから呶鳴《どな》つた。
「此《こ》の錢《ぜに》で外《ほか》の物《もの》買《か》つて喰《く》つた方《はう》がえゝから此《こ》れ丈《だけ》は遣《や》るとすべえよ、折角《せつかく》勘定《かんぢやう》もしたもんだからよ、俺《お》ら大層《たえそ》よくなつたんだから大丈夫《だえぢよぶ》だよ」お品《しな》はいつた。
「そんなこといはねえで幾《いく》つでも取《と》つて置《お》けよ、癒《なほ》り際《ぎは》が氣《き》を附《つ》けねえぢやえかねえもんだから」勘次《かんじ》は漬菜《つけな》の手《て》を放《はな》して檐下《のきした》へ來《き》た。手《て》も足《あし》も茹《ゆ》でたやうに赤《あか》くなつて居《ゐ》る。
「それぢやちつとも殘《のこ》したものかな」お品《しな》は小《ちひ》さなのを二つ取《と》つた
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