え》で癒《なほ》つたもんでござんせうね、先生《せんせい》さん」百姓《ひやくしやう》は懸念《けねん》らしく聞《き》いた。
「さう直《す》ぐにや癒《なほ》らねえな」醫者《いしや》は無愛想《ぶあいそ》にいつた。百姓《ひやくしやう》は依然《いぜん》として蒼《あを》い顏《かほ》をしながら怪我人《けがにん》を脊負《しよ》つて歸《かへ》つて行《い》つた。それから二三|人《にん》の療治《れうぢ》が濟《す》んで勘次《かんじ》の番《ばん》に成《な》つた。
「此《こ》りや大層《たいそう》大事《だいじ》にしてあるな」醫者《いしや》は穢《きたな》い手拭《てぬぐひ》をとつて勘次《かんじ》の肘《ひぢ》を見《み》た。鐵《てつ》の火箸《ひばし》で打《う》つた趾《あと》が指《ゆび》の如《ごと》くほのかに膨《ふく》れて居《ゐ》た。
「どうしたんだえ此《こ》ら、夫婦喧嘩《ふうふげんくわ》でもしたか」醫者《いしや》は毎日《まいにち》百姓《ひやくしやう》を相手《あひて》にして碎《くだ》けて交際《つきあ》ふ習慣《しふくわん》がついて居《ゐ》るので、どつしりと大《おほ》きな身體《からだ》からかういふ戯談《じようだん》も出《で》るのであつた。
「なあにわしやはあ、嚊《かゝあ》に死《し》なれてから七八|年《ねん》にもなんでがすから」勘次《かんじ》は少《すこ》し苦笑《くせう》していつた。
「さうか、そんぢや誰《だれ》に打《ぶ》たれたえ、まあだ壯《さかり》だからそんでも何處《どこ》へか拵《こしら》えたかえ」輕微《けいび》な瘡痍《きず》を餘《あま》りに大袈裟《おほげさ》に包《つゝ》んだ勘次《かんじ》の容子《ようす》を心《こゝろ》から冷笑《れいせう》することを禁《きん》じなかつた醫者《いしや》はかう揶揄《からか》ひながら口髭《くちひげ》を捻《ひね》つた。
「先生《せんせい》さん戯談《じやうだん》いつて、なあにわしや爺樣《ぢいさま》に打《ぶ》たれたんでさ」勘次《かんじ》は只管《ひたすら》に醫者《いしや》の前《まへ》に追求《つゐきう》の壓迫《あつぱく》から遁《のが》れようとするやうにいつた。
醫者《いしや》はそれからはもう默《だま》つて藥《くすり》を貼《は》つて形《かた》ばかりの繃帶《ほうたい》をした。
「先生《せんせい》さん、わしやまあだ來《き》なくつちやなりあんすめえか」勘次《かんじ》は懸念《けねん》らしい目《め》を以《も
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