か》に土手《どて》の往來《わうらい》へ出《で》た。霧《きり》が一|遍《ぺん》に晴《は》れた。彼《かれ》は何《なに》かに騙《だま》された後《あと》のやうに空洞《からり》とした周圍《しうゐ》をぐるりと見廻《みまは》さない譯《わけ》にはいかなかつた。彼《かれ》は沿岸《えんがん》の洪水後《こうずゐじ》の變化《へんくわ》に驚愕《おどろき》の目《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた。偶然《ひよつと》彼《かれ》は俄《にはか》に透明《とうめい》に成《な》つた空氣《くうき》の中《なか》から驅《かけ》つて來《き》て網膜《まうまく》の底《そこ》にひつゝいたものゝやうにぽつちりと一つ目《め》についたものがある。それは遠《とほ》い上流《じやうりう》に繋《かゝ》つて居《ゐ》る小《ちひ》さな船《ふね》であつた。
 其處《そこ》には數本《すうほん》の竹竿《たけざを》が立《た》てられてあるのも同時《どうじ》に彼《かれ》の目《め》に入《い》つた。彼《かれ》は直《す》ぐにそれが鮭捕船《さけとりぶね》であることを知《し》つた。漁夫《ぎよふ》は鮭《さけ》が深夜《しんや》に網《あみ》に懸《かゝ》るのを待《ま》ちつゝ、假令《たとひ》連夜《れんや》に渡《わた》つてそれが空《むな》しからうともぽつちりとさへ眠《ねむ》ることなく、又《また》獲物《えもの》が鋭《するど》く水《みづ》を切《き》つて進《すゝ》んで來《く》るのを彼等《かれら》の敏捷《びんせふ》な目《め》が闇夜《あんや》にも必《かなら》ず逸《いつ》することなく、接近《せつきん》した一|刹那《せつな》彼等《かれら》は水中《すゐちう》に躍《をど》つて機敏《きびん》に網《あみ》を以《もつ》て獲物《えもの》を卷《ま》くのである。彼等《かれら》は夜《よ》が明《あ》けると銀《ぎん》の如《ごと》く光《ひか》つて居《ゐ》る獲物《えもの》が一|尾《ぴ》でも船《ふね》に在《あ》ればそれを青竹《あをだけ》の葉《は》に包《つゝ》んで威勢《ゐせい》よく擔《かつ》いで出《で》る。さもなければ怜悧《りこう》な鮭《さけ》が澱《よど》みに隱《かく》れて動《うご》かぬ白晝《ひる》の間《あひだ》のみぐつたりと疲《つか》れた身體《からだ》に僅《わづか》に一|睡《すい》を偸《ぬす》むに過《す》ぎないので、朝《あさ》の明《あか》るく白《しろ》い水《みづ》にさへ凝然《ぢつ》と其《そ
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