《さは》つて立《た》つて居《ゐ》る身體《からだ》がぐらりと後《うしろ》へ倒《たふ》れ相《さう》に成《な》つた。勘次《かんじ》は船頭《せんどう》が態《わざ》と自分《じぶん》を突《つ》きのめしたものゝやうに感《かん》じて酷《ひど》く手頼《たより》ない心持《こゝろもち》がした。彼《かれ》は凝然《ぢつ》と屈《かゞ》んで船頭《せんどう》の操《あやつ》る儘《まゝ》に任《まか》せた。中央《ちうあう》の大《おほ》きな洲《す》から續《つゞ》く淺瀬《あさせ》に支《さゝ》へられて船《ふね》は例《いつも》の處《ところ》へは着《つ》けられなく成《な》つて居《ゐ》る。只《たゞ》一人《ひとり》の乘客《じようかく》である勘次《かんじ》は船頭《せんどう》の勝手《かつて》な處《ところ》へおろされたやうに思《おも》つた。河楊《かはやなぎ》が痩《や》せて、赤《あか》い實《み》を隱《かく》した枸杞《くこ》の枝《えだ》がぽつさりと垂《た》れて、大《おほ》きな蓼《たで》の葉《は》が黄色《きいろ》くなつて居《ゐ》る岸《きし》へ船《ふね》はがさりと舳《へさき》を突《つ》つ込《こ》んだのである。それでも其處《そこ》にはもう幾度《いくたび》か船《ふね》がつけられたと見《み》えて足趾《あしあと》らしいのが階段《かいだん》のやうに形《かたち》づけられてある。勘次《かんじ》は河楊《かはやなぎ》の枝《えだ》に手《て》を掛《か》けて他人《ひと》の足趾《あしあと》を踏《ふ》んだ。枝《えだ》や葉《は》がざら/\と彼《かれ》の蓙《ござ》に觸《ふ》れて鳴《な》つた。彼《かれ》は三足目《みあしめ》に岸《きし》に立《た》つた。岸《きし》は畑《はたけ》で、洪水《こうずゐ》が齎《もたら》した灰《はひ》に似《に》てる泥《えごみ》が一|杯《ぱい》に乾《かわ》いて大《おほ》きな龜裂《きれつ》を生《しやう》じて居《ゐ》る。周圍《しうゐ》の蜀黍《もろこし》が穗《ほ》を伐《き》られた儘《まゝ》、少《すこ》し遠《とほ》くはぼんやりとして此《こ》れも霧《きり》の中《なか》に悄然《ぽつさり》と立《た》つて居《ゐ》る。勘次《かんじ》が顧《ふりかへ》つた時《とき》、彼《かれ》を打棄《うつちや》つた船《ふね》は沈《しづ》んだ霧《きり》に隔《へだ》てられて見《み》えなかつた。彼《かれ》は蜀黍《もろこし》の幹《から》に添《そ》うて足趾《あしあと》に從《したが》つて遙《はる
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