よろこ》んだ。彼《かれ》が大豆《だいづ》を引《ひ》いて庭《には》に運《はこ》んだ頃《ころ》はまだ暑《あつ》い日《ひ》が落付《おちつ》いて毬《いが》の割《わ》れ始《はじ》めた栗《くり》の木《き》の梢《こずゑ》から庭《には》をぢり/\と照《てら》して居《ゐ》た。根《ね》が幾日《いくにち》もぐつしりと水《みづ》に浸《ひた》つてた大豆《だいづ》は黄色味《きいろみ》の勝《か》つた褐色《ちやいろ》の莢《さや》も幹《から》も泥《どろ》で汚《よご》れた樣《やう》に黒《くろ》ずんで居《ゐ》た。
大豆《だいづ》を引《ひ》いたのはそれでも稀《まれ》な晴天《せいてん》であつたので「いひ返《がへ》し」に來《く》る筈《はず》に成《な》つて居《ゐ》た南《みなみ》の女房《にようばう》を頼《たの》んだ。彼等《かれら》は相互《さうご》の便宜上《べんぎじやう》手間《てま》の交換《かうくわん》をするのであるが、彼等《かれら》はそれを「いひどり」というて居《ゐ》る。それで其《そ》の借《か》りた手間《てま》を返《かへ》すのがいひがへしである。大豆《だいづ》は庭《には》に運《はこ》ぶと共《とも》に一攫《ひとつか》みにしては根《ね》を上《うへ》にして先《さき》を丸《まる》く開《あ》いて互《たがひ》の幹《みき》が支柱《しちう》に成《な》るやうにして庭《には》一|杯《ぱい》に立《た》てゝ干《ほ》した。煙草《たばこ》を一|服《ぷく》吸《す》ふだけの時間《じかん》に、成熟《せいじゆく》しきつた大豆《だいづ》は漸《やうや》くぱち/\と輕《かる》い快《こゝろよ》い響《ひゞき》を立《た》てつゝ爆《は》ぜ始《はじ》めた。大豆《だいづ》は悉《ことごと》く庭《には》の土《つち》に倒《たふ》された。三|人《にん》は連枷《ふるぢ》を執《と》つて端《はし》からだん/\と幹《から》を打《う》つた。おつぎと南《みなみ》の女房《にようばう》とは相《あひ》竝《なら》んで勘次《かんじ》に對《たい》して交互《かうご》に打《う》ち卸《おろ》す連枷《ふるぢ》がどさり/\と庭《には》の土《つち》を打《う》つと硬《こは》ばつた大豆《だいづ》の幹《から》はしやりゝ/\と乾燥《かんさう》した輕《かる》い響《ひゞき》を交《まじ》へてくすんだ穢《きたな》い莢《さや》が白《しろ》く割《わ》れて薄青《うすあを》いつやゝかな豆《まめ》の粒《つぶ》が威勢《ゐせい》よく跳《
前へ
次へ
全478ページ中330ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング