》んだ。
「冷《つめ》たくつて本當《ほんと》に晴々《せえ/\》とえゝ水《みづ》ぢやねえか、俺《お》ら方《ほ》の井戸《ゐど》見《み》てえに柄杓《ひしやく》で汲《く》み出《だ》すやうなんぢや、ぼか/\ぬるまつたくつて」おつたは復《ま》た獨語《ひとりごと》をいつた。勘次《かんじ》は側《そば》を去《さ》つたおつたを棄《す》てゝ、然《しか》も氣《き》の乘《の》らぬ樣《やう》に又《また》蕎麥《そば》を臼《うす》へ打《う》ちつけ始《はじ》めた。おつたは汗沁《あせじ》みた手拭《てぬぐひ》を頻《しき》りにごし/\と揉《も》み出《だ》して首筋《くびすぢ》のあたりから一|帶《たい》に幾度《いくたび》となく拭《ぬぐ》つて手水盥《てうづだらひ》の水《みづ》を換《か》へた。暫《しばら》くして家《うち》の廂《ひさし》からは青《あを》い煙《けぶり》が偃《た》つてだん/\に薄《うす》い煙《けぶり》が後《あと》から/\と暑《あつ》い日《ひ》に消散《せうさん》した。
「おとつゝあ、お茶《ちや》沸《わ》いたぞ」おつぎは戸口《とぐち》へ出《で》て小聲《こごゑ》で勘次《かんじ》へ告《つ》げた。
「うむ」勘次《かんじ》は喉《のど》の底《そこ》でいつて
「※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、279−9]《あね》、お茶《ちや》沸《わ》いたとう」彼《かれ》は又《また》ぶすりといつて蕎麥《そば》の手《て》を止《や》めなかつた。
「お茶《ちや》おあがんなせえね」おつぎは勘次《かんじ》の尾《しり》に跟《つ》いて少《すこ》し聲高《こわだか》にいつた。おつたはぎりつと絞《しぼ》つた手拭《てぬぐひ》を開《ひら》いてばた/\と叩《たゝ》いた。井戸端《ゐどばた》にぼつさりと茂《しげ》りながら日中《につちう》の暑《あつ》さにぐつたりと葉《は》が萎《しを》れて居《ゐ》る鳳仙花《ほうせんくわ》の、やつと縋《すが》つて居《ゐ》る花《はな》が手拭《てぬぐひ》の端《はし》に觸《ふ》れてぼろつと落《お》ちた。側《そば》には長大《ちやうだい》な向日葵《ひまわり》が寧《むし》ろ毒々《どく/\》しい程《ほど》一|杯《ぱい》に開《ひら》いて周圍《しうゐ》に誇《ほこ》つて居《ゐ》る。草夾竹桃《くさけふちくたう》の花《はな》がもさ/\と茂《しげ》つた儘《まま》向日葵《ひまわり》の側《そば》に列《れつ》をなして居《ゐ》る
「能《
前へ
次へ
全478ページ中312ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング