ち》に見《み》た時《とき》不快《ふくわい》な目《め》を蹙《しが》めて知《し》らぬ容子《ようす》を粧《よそほ》ひながら只管《ひたすら》蕎麥《そば》の幹《から》に力《ちから》を注《そゝ》いだのであつた。おつたは稍《やゝ》褐色《ちやいろ》に腿《さ》めた毛繻子《けじゆす》の洋傘《かうもり》を肩《かた》に打《ぶ》つ掛《か》けた儘《まゝ》其處《そこ》らに零《こぼ》れた蕎麥《そば》の種子《み》を蹂《ふ》まぬ樣《やう》に注意《ちうい》しつゝ勘次《かんじ》の横手《よこて》へ立《た》ち止《どま》つた。おつたは幾年《いくねん》か以前《まへ》の仕立《したて》と見《み》える滅多《めつた》にない大形《おほがた》の鳴海絞《なるみしぼ》りの浴衣《ゆかた》を片肌脱《かたはだぬぎ》にして左《ひだり》の袖口《そでぐち》がだらりと膝《ひざ》の下《した》まで垂《た》れて居《ゐ》る。裾《すそ》は片隅《かたすみ》を端折《はしよ》つて外《そと》から帶《おび》へ挾《はさ》んだ。勘次《かんじ》は何處《どこ》までも知《し》らぬ容子《ようす》を保《たも》つことは出來《でき》なかつた。彼《かれ》はおつたの態《わざ》とらしい聲《こゑ》も聞《き》かず、又《また》近《ちか》く立《た》つた其《そ》の姿《すがた》を眼《め》に映《うつ》さない譯《わけ》には行《ゆ》かなかつた。彼《かれ》は蕎麥《そば》を攫《つか》むのを止《や》めておつたの方《はう》を向《む》いた。彼《かれ》は蹙《しが》めて居《ゐ》た顏《かほ》に少《すこ》し極《きま》りの惡相《わるさう》な一|種《しゆ》の表情《へうじやう》を浮《うか》べた。
「何《なん》でえ※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、277−15]等《あねら》」勘次《かんじ》は無意識《むいしき》にさういつた。彼《かれ》の胸《むね》のあたりに湧《わ》き出《いづ》る汗《あせ》は、僅《わづか》に曲折《きよくせつ》をなしつゝ幾筋《いくすぢ》かの流《なが》るゝ途《みち》を作《つく》つて居《ゐ》る。其處《そこ》には蕎麥《そば》の幹《から》から知《し》られぬ程《ほど》づつ立《た》つ埃《ほこり》が付《つ》いて濕《しめ》つて居《ゐ》る。ぢり/\と汗腺《かんせん》から搾《しぼ》れ出《いづ》る汗《あせ》が其《そ》の趾《あと》つけられた流《なが》れの途《みち》を絶《た》たないで其處《そこ》だけ蕎麥《そば》
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