を止《と》めた。勘次《かんじ》は小屋《こや》で卯平《うへい》が鹽鮭《しほざけ》を燒《や》く臭《にほひ》を嗅《か》いでは一|種《しゆ》の刺戟《しげき》を感《かん》ずると共《とも》に卯平《うへい》を嫉《にく》むやうな不快《ふくわい》の念《ねん》がどうかすると遂《つひ》起《おこ》つた。それだが卯平《うへい》は又《また》獨《ひとり》でむつゝりと蒲團《ふとん》にくるまつて居《ゐ》る時《とき》は父子《おやこ》三|人《にん》の噺《はなし》が能《よ》く聞《きこ》えた。彼《かれ》は自分《じぶん》が一|緒《しよ》に居《ゐ》る時《とき》は互《たがひ》に隔《へだ》てが有相《ありさう》で居《ゐ》て、自分《じぶん》が離《はな》れると俄《にはか》に陸《むつ》まじ相《さう》に笑語《さゝや》くものゝ樣《やう》に彼《かれ》は久《ひさ》しい前《まえ》から思《おも》つて居《ゐ》た。其《それ》を聞《き》くと彼《かれ》は一|種《しゆ》の嫉妬《しつと》を伴《ともな》うた厭《いや》な心持《こゝろもち》に成《な》つて、蒲團《ふとん》を深《ふか》く被《かぶ》つて見《み》ても何《なん》となく耳《みゝ》について、おつぎの一寸《ちよつと》甘《あま》えた樣《やう》な聲《こゑ》や與吉《よきち》の無遠慮《ぶゑんりよ》な無邪氣《むじやき》な聲《こゑ》を聞《き》くと一|方《ぱう》には又《また》彼等《かれら》の家族《かぞく》と一つに成《な》りたいやうな心持《こゝろもち》も起《おこ》るし、彼《かれ》は凝然《ぢつ》と眼《め》を閉《と》ぢて居《ゐ》るので頭《あたま》の中《なか》が餘計《よけい》に紛糾《こぐら》かつて、種々《いろ/\》な状態《じやうたい》が明瞭《はつきり》と目先《めさき》にちらついてしみ/″\と悲《かな》しい樣《やう》に成《な》つて見《み》たりして猶更《なほさら》に僂麻質斯《レウマチス》の疼痛《いたみ》がぢり/\と自分《じぶん》の身體《からだ》を引緊《ひきし》めて畢《しま》ふ樣《やう》にも感《かん》ぜられた。彼《かれ》はさういふ時《とき》おつぎでも與吉《よきち》でも
「爺《ぢい》よう」と喚《よ》んでくれゝばふいと懶《ものう》い首《くび》を擡《もた》げて明《あか》るい白晝《はくちう》の光《ひかり》を見《み》ることによつて何《なん》とも知《し》れぬ嬉《うれ》しさに涙《なみだ》が一|杯《ぱい》に漲《みなぎ》ることもあるのであつた。

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