》し煮《に》れば直《す》ぐくた/\に溶《と》けようとする。卯平《うへい》には却《かへつ》てそれが善《よ》いので、彼《かれ》はさうして呉《く》れるおつぎを何處《どこ》までも嬉《うれ》しく思《おも》つた。彼《かれ》は只《たゞ》一つでも善《い》いから始終《しじゆう》汁《しる》の中《なか》で必《かなら》ずくつ/\と煮《に》て欲《ほ》しかつた。然《しか》しそれは一同《みんな》で祝《いは》ふ時《とき》のみで、それさへ卯平《うへい》が只獨《ただひとり》ゆつくりと味《あぢは》ふには焙烙《はうろく》に乘《の》せる分量《ぶんりやう》が餘《あま》りに足《た》らなかつた。餅《もち》は四|角《かく》に庖丁《はうちやう》を入《い》れると直《す》ぐに勘次《かんじ》は自分《じぶん》の枕元《まくらもと》の桶《をけ》へ藏《しま》つて無斷《むだん》にはおつぎにさへ出《だ》すことを許容《ゆる》さないのであつた。勘次《かんじ》は假令《たとひ》什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》ことがあつても面《まのあた》り卯平《うへい》に向《むか》つて一|言《ごん》でも呟《つぶや》いたことがないのみでなく、只管《ひたすら》或《ある》物《もの》を隱蔽《いんぺい》しようとするやうな恐怖《きようふ》の状態《じやうたい》を現《あらは》して居《ゐ》ながら、陰《かげ》では爪《つめ》の垢《あか》程《ほど》のことを目《め》に止《とめ》て獨《ひとり》でぶつ/\として居《ゐ》た。勘次《かんじ》は只《たゞ》一|度《ど》おつぎが自分《じぶん》の留守《るす》に卯平《うへい》の爲《ため》に其《そ》の餅《もち》の僅《わづか》を燒《や》いてやつたのをすら發見《はつけん》しておつぎを叱《しか》つた。
「そんだつておとつゝあは、よき欲《ほ》しいつちから出《だ》して俺《お》れと燒《や》いたんだあ、食《く》へたくなつちやしやうあんめえな」おつぎは甘《あま》えた舌《した》で言辭《ことば》は荒《あら》く勘次《かんじ》を窘《たしな》めた。勘次《かんじ》は其《そ》の以上《いじやう》を越《こ》して再《ふたゝ》びおつぎを叱《しか》ることは能《よ》くしなかつた。僅《わづか》な餅《もち》はさういふことで幾《いく》らも減《へ》らないのに時間《じかん》が經《た》つて、寒冷《かんれい》な空氣《くうき》の爲《ため》に陸稻《をかぼ》の
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